2018 年 17 巻 3 号 p. 150-152
Ferulic acid is known to have strong antioxidant properties. In the present study, we have investigated the electronic structures of Ferulic acid and its radical extracting the hydrogen atom from its phenolic hydroxyl group. We have discussed the relation of the results with the radical scavenging activity using the DPPH reagent measured by Xuan et al. We have found that the total energies of Ferulic acid derivatives and its radical species made from removing the hydrogen radical from the phenolic hydroxy group have the relation with the IC50 values. The orbital energies of the radical species also have the relation with the IC50 values. The deep learning study with the random forest model suggests that the contribution from α-SOMO and α-LUMO energies is important.
酸化ストレスは,パーキンソン病やアルツハイマー型認知症などの神経変性疾患や [1],虚血性脳障害の発症・進展に深く関与していることが知られている [2].
近年,この酸化ストレスの軽減を目的として,抗酸化物質の神経保護作用が注目されている [3,4].
Figure 1に示したフェルラ酸 (FA) は1886年,オーストリアのHlasiwetzらによってオオウイキョウ属のFerula foetidaから単離・構造決定されたケイ皮酸誘導体の一つであり [5],比較的強い抗酸化作用を示すことが明らかになっている [6].FAはフェノール性水酸基によってフリーラジカルに水素を供与することで抗酸化作用を示すと考えられている.最近では,健康促進のために害の少ない天然の抗酸化剤に注目が集まっており,FAの効果が期待されている.そこで,友野らはFAよりも高い効果を示しかつ毒性の低いFA誘導体の探索を目的として種々の置換基を導入したFA誘導体を合成し,フリーラジカル消去能の測定を行い,消去能は大きく置換基に依存することを発見したが,どのようなメカニズムにより消去能の違いが生まれるのかは不明であった [7]. そこで本研究では玄らの研究によりDPPHフリーラジカル消去能の測定で得られた50%のDPPHフリーラジカル消去濃度 (IC50) を元に,FAとその誘導体のフェノール性水酸基から水素を取ったラジカルの電子状態とIC50との関連性を考えた.
Ferulic acid and its derivatives.
分子軌道計算プログラムGaussian09 [8]を使用し,FAとその誘導体をRHF/6-31G**レベルで,FAとその誘導体のフェノール性水酸基から水素を取ったFAラジカルをUHF/6-31G**レベルで構造最適化を行った.最適化された構造に対して振動数計算を行い,安定構造であることを確認した.ただし,今回はコンフォメーション探索は行っていないため,エネルギー最小値であることは確かめていない.将来的にはGAMESSプログラム [9]に組み込んだ高次元アルゴリズム [10]によるコンフォメーション検索を行う予定にしている.
最初にFAのラジカル消去能に関しては,個々のFAのラジカルへの変化しやすさが関係しているのではないかと考えて,元のFA類とフェノール性OH基からHラジカルを取り去ったラジカル種とのエネルギー差について計算し,Table 1にFAとその誘導体22個のHF/6-31G**レベルでの結果とIC50値をまとめた.IC50は値が大きいほどラジカル消去能が小さいことを表している.またIC50値が1500とあるのは1500以上の値であることを表している.比較対象として抗酸化物質であるコーヒー酸 (CA),アスコルビン酸 (VC),トロロックス (Trolox)の3つの化合物の結果も載せた.
Compound | IC50 (μM) | Energy*1 |
FA | 73 | -0.58725 |
1 | 93 | -0.58464 |
2 | 1500 | -0.58355 |
3 | 99 | -0.58732 |
4 | 53 | -0.58509 |
5 | 469 | -0.58821 |
6 | 1500 | -0.58596 |
7 | 90 | -0.58919 |
8 | 161 | -0.58970 |
9 | 69 | -0.58625 |
10 | 75 | -0.58687 |
11 | 82 | -0.58721 |
12 | 73 | -0.57782 |
13 | 1500 | -0.58405 |
14 | 117 | -0.58206 |
15 | 1500 | -0.58095 |
17 | 1117 | -0.59083 |
18 | 398 | -0.58667 |
22 | 47 | -0.58008 |
24 | 49 | -0.58155 |
27 | 755 | -0.59008 |
28 | 1500 | -0.58935 |
30 | 202 | -0.59009 |
CA | 55 | -0.58659 |
Trolox | 52 | -0.58024 |
VC | 69 | -0.59405 |
*1Energy difference between the neutral and radical species.
以上の結果について1/IC50値に対してプロットし一次関数で近似して相関係数を見てみると,明らかに外れた値であるVCを除いても0.20程度であって,相関関係があるとは言えない.ただし,IC50値が1500であるものは1500以上という意味であり,測定を途中で打ち切っているため除くと,相関係数は0.47程度まで改善される.さらにFA誘導体12ならびに14も除くと相関係数は0.65にまで改善される.エネルギー差とIC50値は相関関係があると考えられる.
各フェルラ酸誘導体の差は置換基の種類だけであるので,分子軌道法から計算される物性値はほぼ同じで大きな差は生じない.特にFA誘導体1と2のラジカル消去能の大きな差は,構造の違いが水酸基の位置だけであるため計算値の違いはほとんど無いが,β 軌道のLUMOの軌道エネルギー値が大幅に違うことがわかった.そのため α 軌道のSOMOと β 軌道のLUMOのエネルギー差とラジカル消去能の関係を調べてみるとやや相関が見られることがわかった.
ラジカル種の個々の軌道エネルギーを見ていくと,やはり同様に置換基の差だけであるので分子軌道法から計算される物性値はほぼ同じで大きな差は生じない.特にFA誘導体1と2のラジカル消去能の大きな差は,構造の違いが水酸基の位置だけであるため計算値の違いはほとんど無く説明がつかない.ラジカル種においてもニュートラル種においても,それらのHOMOとHOMO-1はちょうどベンゼンの二重縮退したHOMOからなっているのがわかる.そこで α 電子パートのSOMOとSOMO-1のエネルギーの和とIC50値の関係を調べてみると相関係数が0.46となり,やや相関が見られることがわかった.
そこで次に,ラジカル種のαSOMO, αSOMO-1, βSOMO, αLUMO, βLUMO, ニュートラル種のHOMO-1, HOMO, LUMO, LUMO+1の各軌道エネルギー値とlogIC50との関係をsci-kit-learnを使用してrandom forestモデルにより機械学習を試みたところ,αSOMO-1が6%,αSOMOが24%,αLUMOが45%の寄与があると計算され,αSOMOおよびαLUMOの寄与が大きくなっていることがわかる.
本論文ではフェルラ酸の抗酸化作用に注目して,分子軌道計算の結果とIC50値の相関関係を調べた.元のフェルラ酸誘導体とOH基からHラジカルを除いたラジカル種とのエネルギー差に相関関係が見られた.またニュートラル種とラジカル種の分子軌道エネルギーとIC50値の間にも相関関係が見られることがわかった.
ランダムフォレストモデルによる機械学習の結果からは,ラジカル種のα-SOMOおよびα-LUMOの寄与が大きいことが予測された.
本研究はJSPS科研費16K05666の助成によって行われた.