Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Development and Application of FMO Calculation − DPD Simulation Conbination Scheme
Koji OKUWAKIHideo DOIYuji MOCHIZUKITaku OZAWAKenji YASUOKAKaori FUKUZAWA
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2018 Volume 17 Issue 3 Pages 144-146

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Abstract

We have been developing a combination scheme of fragment molecular orbital (FMO) calculations and dissipative particle dynamics (DPD) simulations in order to predict the structure of functional materials. FMO-DPD simulations for polymer electrolyte membrane, lipid membrane, and protein model were conducted using in-house automatic parameter determination software.

1 序論

近年,マテリアルサイエンスや創薬などの分野で,用途に応じて機能を最適化した材料の開発要求が高まっており,効率的な開発のためのシミュレーションによる構造,物性予測が期待されている.生成物の特性には10 −100nm 単位の分子集合体がつくるメゾスケール構造の影響が大きいため,物質を構成するナノスケールの原子をそのまま扱うことは難しく,散逸粒子動力学(DPD) [1]のように分子単位を粗視化したシミュレーション手法が有効に用いられている.その際,粒子間の相互作用を表すパラメータが必要となるが,従来は実験値や経験的なパラメータを元にした値を割り当てていたため,信頼性が十分でないケースがある他,参照した実験系とは定性的に異なる系に対しては適用出来ない問題があった.そこで我々はここ数年,DPDで使われる有効相互作用パラメータをフラグメント分子軌道(FMO)計算 [2]に基づいて算定する FMO-DPD 連携マルチスケールシミュレーションを進めている.

まず我々は,高分子を構成する基本単位となる小分子間の相互作用エネルギーからパラメータを算出する手法 [3]に着目し,FMO法による相互作用計算を行うと共に,系の異方性をパラメータ計算に考慮することで手法の改良を行った [4].その結果,ヘキサン-ニトロベンゼンといった単純な二成分混合系における相転移上部臨界温度が実験値と良好な一致を示した他,脂質膜 [5]や高分子電解質膜 [6]において応用計算を行い,実験値と良好な対応が得られた.更に,ABINIT-MP [7]を用いた一連のパラメータ算定機能を自動フレームワークFMO-based Chi-parameter Evaluation Workflow System (FCEWS) として整備し,公開することとした [8].

今回は構築したフレームワークを用いた応用研究の展開や,研究グループ内で新規開発されたDPDコード(CAMUS) [9]を用いたFMO-DPDマルチスケールシミュレーション環境の構築状況について概要を報告する.

2 高分子電解質膜

高分子電解質膜は環境負荷の低いエネルギーとして期待される燃料電池のイオン交換膜として使われている.内部のプロトン移動が電池性能に大きく影響するため,水和構造のつくる水ネットワークが重要とされているが,分極や電子非局在化など電子レベルの相互作用が構造形成の鍵となるが故,パラメータ算定は大きな課題となっていた.本研究ではフッ素系骨格を有し燃料電池膜に一般的に使われるNafion®と,芳香族炭化水素骨格を持つSPEEK膜に対して,Figure 1のように分子内を小部位に分けてパラメータを算定しFMO-DPD連携シミュレーションを行った.その結果,クラスタサイズ等の構造指標値について実験と良好な一致を示した上,SPEEKではNafionに比べて小さい水クラスタの連結指標が示され,H+ 伝導度の実測値と傾向が一致した.

Figure 1.

 The structures of Nafion and SPEEK.

上記試行では側鎖スルホン酸末端がプロトン化した構造を扱っていたが,実際にはそのほとんどは電離しているといわれている.そこで,より現実に条件を近づけるため,Nafionの末端スルホン酸がイオン化したモデルを併せて扱い,シミュレーションを行った.その際,正電荷を持つ水粒子モデルと,ニュートラルな水粒子モデルの2種類を扱ったところ,正電荷水粒子が他の水粒子を囲む形で電離スルホン酸と強く結びつく様子が観察された.また,Nafionの電離度を変更して複数検討したところ,電離度が大きい方がクラスタの連結が起こりやすいという結果が得られた.

3 脂質膜

脂質膜は生体内で二重膜構造をとり,膜に嵌入したタンパク質が分子を認識し透過することで複雑な機能を保っている.近年,こうした生体膜構造を模したセンサーなどのナノバイオデバイスの開発が期待されている.まず代表的なリン脂質であるPOPC (1-palmitoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine)を対象に構造再現を試みたところ,脂質濃度に応じてベシクル,二重膜構造が得られ(Figure 2),得られた構造の膜面積,膜厚が実験値と良好な対応を示した [5].

Figure 2.

 The structures of vesicle and bilayer.

更に,ナノバイオデバイスへの端緒として,デバイスの基盤となるシリカ表面への膜の吸着の再現を行った.界面の電子状態を考慮し,バルク中の水と異なる性質を持つ水粒子(界面水)を定義することで,シリカ基盤への膜の吸着に成功した(Figure 3) [10].

Figure 3.

 Adsorption of the lipid bilayer on the silica surface.

また,ドラッグデリバリーシステム(DDS)へ向け,siRNAキャリアーとしてのリポソームを意図した正電荷脂質,リン脂質の混合膜についての構造検証も試行中である.DPPC, DOPC, TAP, DOTAPについてパラメータを算定し,混合・濃度の条件を変えながらDPDシミュレーションを行うことで,膜表面で分子がクラスタ化するという知見が得られた [11].

4 新規DPDコード

生体分子の大規模なシミュレーションを可能にするために,我々の研究グループでは高速なDPDに特化したCAMUSコード(Fortran)の開発が進められている [9].分子シミュレーションでは一般的に近接粒子リストを作成して計算の高速化を図るが,DPDでは粒子の移動が激しいため,近接リストの作成に大きなコストを要する問題がある.そこで,CAMUSでは近接リストの作成を行わないことで,計算の高速化に成功した.

更に,CAMUSはタンパク質などの生体分子をモデル化する際に重要となる1-3&1-5相互作用を容易に導入することが可能である.先行論文をもとにパラメータを加えることでαへリックスやβシートといった二次構造のモチーフを再現することができた.

Acknowledgment

本研究開発は文科省FS2020プロジェクト重点課題6,ならびに科研費(16H04635)から支援を受けている.

参考文献
 
© 2018 Society of Computer Chemistry, Japan
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