Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Theoretical Significance of Radical Copolymerization
Ryo NISHIKUBOYoshihiro HAYASHISusumu KAWAUCHI
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2018 Volume 17 Issue 3 Pages 120-121

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Abstract

Radical copolymerization was theoretically investigated by using correlations between Q-e values and properties of monomers and terminal radical models. As a result, it was found that same e value used for monomers and radicals is reasonable. In addition, it was found that Q value is mainly related in reaction kinetics but not reaction thermodynamics.

1 研究背景と目的

2種のビニルモノマー間のラジカル共重合で生成するポリマーの構造は,モノマーの濃度と生長反応の反応性比(同種結合の反応速度定数と異種結合の反応速度定数の比)を用いて予測することが出来る.モノマーM2がラジカル末端M1に付加する異種結合の反応速度定数k12,モノマーM1がラジカル末端M2に付加する同種結合の反応速度定数k11がそれぞれ   

k 12 = P 1 Q 2 exp [ e 1 e 2 ]
  
k 11 = P 1 Q 1 exp [ e 1 2 ]
と表せると仮定する.ここで,Q,e,Pはモノマー種に固有の値である.これらの値を用いると,反応性比r1は   
r 1 = k 11 k 12 = ( Q 1 Q 2 ) exp [ e 1 ( e 1 e 2 ) ]
と表される.つまり,Qeによってラジカル共重合性を予測することができる.現在,Q-e値はスチレンのQ=1.0,e=−0.8を基準として実験結果を基に多くのモノマーについて導出されている.この値はラジカル共重合性に留まらず,アニオン重合性やカチオン重合性の予測にも有用である.量子化学計算によってQ-e値を予測することが可能になれば未知のモノマーについて重合反応性の予測が容易になるため,過去にも多くの研究が試みられてきた.一般的にQ値はモノマーの共鳴安定化の程度,e値はモノマーの極性の程度を表現すると言われている.過去の研究ではQ値と反応熱,e値と電気陰性度との関連が示唆された [1].一方でQ-e値の十分な理論的意義付けは為されていない.本研究は,量子化学計算によってQ-e値の理論的意義付けを行うことを目的とした.31種のモノマー(電子付録参照)及びラジカル末端モデルについて量子化学計算を行い,各種物理量とQ値,e値との関係を調べた.

2 計算方法

量子化学計算にはGaussian16 [2]を用いた.汎関数にはωB97X-D,基底関数には6-311G+(2d,p)を用いた.ラジカル末端モデルには,モノマーにメチルラジカルが付加したものを用いた.

3 結果と考察

e値とモノマーのβ炭素のNPA電荷,電気陰性度との関係について検討を行った.e値とNPA電荷との関係については電子付録に記載した. Figure 1にe値とモノマーの電気陰性度(χmono)との関係を示した. e値とχmonoとの間には緩やかな相関が見られたことから,e値は反応点の極性以上にモノマー全体の極性と関係した値であると言える.一方で,Tetrafluoroethyleneを始めとする多ハロゲン置換モノマーでは相関からの逸脱が見られた.Figure 2にモノマーの電気陰性度とラジカル末端の電気陰性度の関係を示した.これらが互いに直線相関することから,モノマーとラジカル末端で同じe値を用いることが妥当であることを確認できた.

Figure 1.

 Correlation between χmono and e

Figure 2.

 Correlation between χmono and χrad

Q値とモノマーのハードネス,ビニル二重結合長,ラジカル末端スピン密度との関係について調査を行った. Q値とモノマーのハードネス,ビニル二重結合長,ラジカル末端スピン密度との関係については電子付録に記載した.モノマーのQ値の自然対数とメチルラジカル付加の反応エンタルピー(ΔH)との関係をFigure 3に示したln Qと反応エンタルピーとの間には多くのモノマーで良い相関があった.一方で,多ハロゲン置換モノマーについてはln Qに対して反応熱が負に大きく,相関から外れた.このような多ハロゲン置換モノマーの特異性は先行研究においても報告されている [1].一方,Figure 4に示したように,ln Qとラジカル付加反応の活性化エンタルピー(ΔHa)との関係を見ると,全モノマーでQ値との間によい相関が見られた.特に,多ハロゲン置換モノマーを含めて統一的にln Qとの相関が見られた例はこれが初めてである.これらの結果は,熱力学よりむしろ速度論がQ値に大きく関与することを示している.

Figure 3.

 Correlation between reaction enthalpy and ln Q

Figure 4.

 Correlation between activation enthalpy and ln Q

Acknowledgment

本論文の計算は東京工業大学のTSUBAME3.0および自然科学研究機構計算科学研究センターのスーパーコンピュータを用いて行った.また,研究費を補助していただいたJST CREST (JPMJCR1522)及び,JSPS 科研費 (JP17K17720) に深謝する.

参考文献
 
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