Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Analysis for the Stability of All Sodium Isomers by Graph Theory and Molecular Mechanics
Rika SEKINEAyumi MURONOMasaya OKAKURAYosuke KOBAYASHIYuto NAKAGAMI
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2018 Volume 17 Issue 3 Pages 117-119

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Abstract

All isomers for sodium clusters up to Na9 were investigated by graph theory where a vertex and an edge correspond to atom and bond between adjacent atoms, respectively. All isomers, more than 10 million, for Na10 were listed. Structural features for sodium clusters up to Na9 were elucidated by using graph theory. Furthermore, geometrically forbidden graphs were excluded by using molecular mechanics.

1 はじめに

金属クラスターは最大12配位までの構造をとりうるので,多様な異性体が存在する.それらを分類し,熱学力的な安定性を議論する上で,原子を点,結合を線で表すグラフ理論が有用である.Wangらは9量体までのすべての異性体を数え上げて一価のクラスターの安定性を議論しているが [1],10量体以上については調べられた例がない.そこで,原子の数が増すにつれてその異性体の数が天文学的に膨れ上がっていくことに対応できるような数え上げプログラムをC++によって作成して計算の効率化を図り,10量体のすべての異性体を数え上げることを目標とした.

異性体の構造のグラフ理論的な表現は隣接行列であり,この行列からHückel法を用いてHückel Energy (HE)を容易に得ることができる.しかし,その異性体が3次元空間の中で実際に取りうる構造を持つかどうかの判定を別途行う必要が生じる.本研究では,一価の原子としてクラスターの性質がよく調べられているNaを選び,分子シミュレータLAMMPS [2]に組み込まれている分子力場法を用いてその判別を行った.

2 方法

2.1 異性体の数え上げ

異性体を数え上げるプログラムは,(1)異性体の候補となる隣接行列をすべて数え上げる「候補列挙プログラム」と,(2)その候補の中からグラフ的に同型のものを除く「アイソマー判定プログラム」の二つの部分からなる.プログラム(1)は,「異性体であることが確認された(n-1)量体の隣接行列に原子を1個加えたもの」の隣接行列のみを数え上げるプログラムで,非連結グラフの発生を防ぐことで原始的な数え上げより候補の総数を絞ることができることが特徴である.後者のプログラムは公開されている「同型性判定コード」 [3]を中心として作成されており,同型性を判定するときに,候補のグラフを同型になりえない部分集合――各原子の価数の並びが一致する組み合わせごとに分類――にわけることで計算時間を短縮した.得られた10量体の異性体の総数は11,716,571であり,辺別の異性体の数も含めWangらが報告しているもの [1]と完全に一致した.

2.2 グラフ理論的な解析

安定性の解析をグラフ理論的に行うため,HEの計算と原子間のグラフ的な距離をMathematicaの関数を用いた簡単なプログラムを組んで求めた.一つの原子から出ている手の数の標準偏差を求めるなどの統計的処理は表計算ソフトを用いて行った.

2.3 分子力場計算

Naクラスターに対する分子力場計算に適したポテンシャル関数を求めるため,量子化学計算ソフトGaussianで一点エネルギー計算を行った(小泉の方法 [4]を参照).汎関数/基底関数にはB3LYP/6-311G (3df)を用いた.結合のポテンシャル関数は,Na 3量体の形を正三角形に保ちながら結合長を変えたときのエネルギー変化から決定した.フィッティング関数にはモース関数を用いた.角度のポテンシャル関数は,Na 3量体の2辺の長さを固定し,2辺のなす角を変えた時のエネルギー変化から,底辺が同じ長さの時の結合エネルギーを引き,調和振動子近似を用いてフィッティングした.また,結合していない2原子間には反発が働くようなポテンシャルを設定するため,レナード-ジョーンズ(LJ)ポテンシャルの関数を流用した.結合していない原子同士が結合距離程度に近づくと反発が働くように,LJポテンシャルのσ = 5Åに,また引力項を無視できる程度に小さくするためε = 0.1 kcal/molとした.

予備的な計算で,LAMMPSでは,しばしば最安定構造ではなく極小構造に収束してしまうことがわかったので,①立方体(の一頂点が欠損) ②五方両錘 ③直線 ④正七角形の4種類の初期構造を設定し(7量体の場合),最も安定な構造を最安定構造とした.得られた最安定構造が三次元空間で実現可能かどうかは原子間の距離によって判別した.条件1「結合している原子同士については,距離がr0 ± 9.4% (r0は平衡核間距離)以内に入っている」,条件2「結合していない原子同士については,距離がr0+9.4%より長い」とし,すべての原子間について条件1または条件2のどちらかを満足しているものを実現可能と判別した.

3 結果

3.1 グラフ理論的な解析

10量体の解析は現在進めているところなので,9量体までの結果を示す.Na 7量体までに関しては,HEで得られた最安定構造と量子化学計算で得られたものとが一致しているので,熱力学的な安定性を議論する上でHEは適切な指標であると考えた [5].HEと結合の手の数との関係を9量体の全ての異性体に対して求めた結果をFigure 1に示した.Figure 1ではHEの大きい点と小さい点のみをプロットし,間の領域の点は省略してある.プロットからHEは曲線を描き,結合の手の数が24で極大値を取っていることがわかる.5~8量体までの場合でもHEの極大をとる結合の手の数は異なっているものの,9量体と類似した曲線を示し,また,HEの極大値が手の数の最大値と最小値の平均値付近に現れることがわかっている [6].9量体では平均値は22であるが,極大値は24に現れ,クラスターを構成する原子の数が多くなるにつれHEの極大値は平均から手の数の多い方へとシフトしていく傾向がみえた.

Figure 1.

 Relation between Hückel energy (HE), and number of bonds for isomers of Na9.

結合の手の数が同じもののなかで,一つの原子から出ている手の数の標準偏差を求めたところ,標準偏差すなわち手の数のばらつきの小さいものほどHEが大きくなる傾向がみられた.さらに,安定なクラスターの構造上の特徴を記述する属性として,各原子間の結合のグラフ的な「距離」に注目し解析を行った.距離1の組合せの数( = 辺の数)が等しいクラスターに対して,距離2と距離3の原子の組がいくつずつあるかを数え上げた.その結果,辺の数が少ないものは原子同士の距離が遠い広がった形[Figure 2 (a)],辺の数が多いものは原子同士の距離が近くなった形[Figure 2 (b)]がより安定な構造だということがわかった.

Figure 2.

 Most stable Na9 structure for (a) 8 bonds, small number of bonds and open structure.(b) 23 bonds, large number of bonds and closed structure.

3.2 分子力場法

原子間距離による判定を行うことによって,7量体で28%の構造を3次元的に実現不可能な構造として判別することができた.また,今回の分子力場計算での最安定構造はFigure 3 (a)のような平面正六角形であった.一方量子化学計算で最安定とされる構造はFigure 3 (b)のような五方両錘であり [5],分子力場法では301番目に安定な構造であった.このことから,今回用いたポテンシャル関数は量子化学計算を再現するものではないが,量子化学計算を行う候補の異性体の数を絞る程度には有効であると考えることができた.

Figure 3.

 Most stable structure for Na7.

(a) Molecular mechanics, (b) Quantum chemical calculation [5]

References
 
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