2018 Volume 17 Issue 3 Pages 130-132
The hyaluronan (HA) binding mechanism on CD44 was investigated by using molecular dynamics simulation. The Ordered (O) and partially disordered (PD) structures have been reported for CD44 HA binding domain (HABD). Two binding forms were investigated for the HA binding for O and PD structures in this study. O and PD structures show different HA binding structures, and the HA binding affinity on the PD structure was larger than that on O structure. The mobility of HA molecule on CD44 was high, especially for O structure. High affinity of HA binding on PD structure is suggested to regulate the rate of cell rolling under blood flow.
CD44は一回膜貫通タンパク質でヒアルロン酸(HA)結合ドメイン(HABD)が細胞外に存在し [1],リンパ球,マクロファージ,上皮細胞,血管内皮細胞など様々な細胞に発現している [2,3].CD44は,リンパ球のホーミングや炎症部分への浸潤の媒介を担うとされている [2,3,4].その際,CD44はその接着分子となり,血流下でHABDとHAが接着と脱離を繰り返し行うことによってリンパ球のローリングが達成される [5,6].
CD44 HABD構造として,Figure 1に示すようにX線結晶構造解析およびNMRスペクトル解析より,C末端が一定の構造をとる(Ordered (O))構造と一定の構造をとらない(Partially disordered (PD))構造の2つが報告されている [7].細胞ローリング実験,Steered MD法を用いた研究によってPD構造は細胞ローリング時血流下における張力依存的な構造遷移によって生成するが,その寿命は数十ミリ秒と短いことが報告されている [11].
Ordered and partially disordered structures of CD44 HABD
マウスCD44 HABDのO構造とHAの複合体はX線結晶構造解析によって明らかになっており,複合体安定化には,水素結合による寄与が大きいことと,芳香族アミノ酸残基の寄与が見られないことが報告されている [8].一方,ヒトCD44 HABDのPD構造におけるHA結合状態はHA6糖を用いたNMR実験により明らかにされているが,HAの幾何学構造は決定されていない [9].上記の先行研究結果から報告されているマウスCD44 HABDのO構造,ヒトCD44 HABDのPD構造におけるHA結合部位は類似している [8,9]が,NMR実験からはCD44 HABDには2つの結合サイト,結合様式が存在する可能性が示された [10].
そこで我々は2つのCD44 HABD構造と2つの結合サイトを仮定し,MDシミュレーションを用い複合体形成のダイナミクス,接着機構の解明を目指した.
ヒトCD44 HABDのO,PD構造として,X線結晶構造,NMR構造をそれぞれ用い,提案されている2つのHA結合様式 (mode1,mode2) をもとに4つの複合体構造を作成した.水滴モデルを用いタンパク質周囲に水を配置し,Na+,Cl−イオンを添加した.タイムステップを2 fs,300 K,カットオフ12 Å,Amber99,TIP3P力場で30 nsのNVT MDシミュレーションを行った.すべての計算にはmyPrestoプログラムを用いた.
結合自由エネルギーはMM-PBSA,MM-GBSAを用いて見積もった.
HA結合の有無にかかわらず,PD構造のdisorder領域はシミュレーション中に折りたたまれ,タンパク質表面に沿ってFigure 2に示すようにO構造と同様なコンパクトな構造に変化していくことがわかった.
Snap shots at 0 and 30 ns from 30 ns simulation of partially disordered structure
次に各複合体モデルのHA結合自由エネルギーから,O構造とPD構造ではその結合様式が異なっていることがわかった.PD構造では実験結果から提案されているmode2の構造 [10]が安定であり,4つの複合体中最も安定であった.一方,O構造ではマウスの複合体結晶構造と同じmode1が安定であった.mode2 PD複合体とmode1 O複合体の安定化エネルギーの差は6.91 kcal/molであった.
Figure 3に示すように複合体中のHA分子のRMSF値は大きい.また,Table 1に示すHAとCD44間の水素結合数も一定しない.このことから,HAはタンパク質表面上で大きく揺らいでいることがわかる.mode2 O構造は特に揺らぎが大きく,シミュレーション中タンパク質表面上での移動が見られた.
RMSFs (Å) of HA during 30 ns simulations of complex models
Complex model | Average number | Maximum number | Minimum number |
mode1 O | 8.65 ± 1.41 | 14 | 3 |
mode2 O | 6.70 ± 2.34 | 15 | 0 |
mode1 PD | 5.87 ± 2.44 | 14 | 0 |
mode2 PD | 7.19 ± 1.80 | 14 | 1 |
細胞ローリング中,CD44 HABDはO構造でHA分子と結合し,膜に結合しているC末端が引っ張られPD構造が生成する.PD構造ではHA分子との結合がO構造よりも強いことから,血流に流されることなく移動速度が制御されると考える.PD構造の寿命は非常に短くO構造へと遷移していき,HA分子の脱離が起こると予想される.