Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
人工知能による片状黒鉛鋳鉄の黒鉛組織の判定
池原 瑞生内田 希岩見 祐貴加藤 雅也菅野 利猛
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2020 年 19 巻 4 号 p. 167-168

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Abstract

The graphite structure of flake graphite cast iron is classified into 5 types of A,B,C,D,E or 6 types including chill. In usually, type A is good quality and type D is poor quality. As the proportion of D-type graphite increases, the tensile strength decreases.

Inspection of graphite structure is one of the quality evaluations. However, there is no method for numerically determining the graphite structure of flake graphite cast iron. In this study, we created an AI that determines 6 types of graphite structure from A to chill using a Convolutional Neural Network (CNN).The created AI judged the graphite structure photographs that not used for learning with an average correct answer rate of 97.5%. In addition, when the graphite structure of one sample was analyzed by AI, it was confirmed numerically that the graphite structure deteriorated.

1 はじめに

片状黒鉛鋳鉄は,片状に黒鉛が析出している鋳鉄材料であり,減衰性などに優れる.黒鉛組織は注湯条件などにより変化する.ISOではAからEの5種類に分類されており,チル化を合わせ計6種類の黒鉛組織としてとらえられている.一般に,A型は良質,D型は粗悪な組織とされ,D型黒鉛の組織の割合が増すほど,引張強度は低下する[1].黒鉛組織は品質評価の項目の一つであるものの,数値的に定式化する手法はいまだ確立されていない.本研究では,AIに片状黒鉛鋳鉄の黒鉛組織写真を学習させ,数値的に黒鉛組織写真を解析させることを目的とした.

2 方法

AからChillの6種類の黒鉛組織を持つ直径30 mmの片状黒鉛鋳鉄試料を鋳造し,研磨面から学習及び解析用の写真を光学顕微鏡を用い撮影した.撮影した写真を格子状に6分割した後,単一の黒鉛形状が広がっている写真を選別し,教師データに用いた.教師データに用いた写真の一例をFigure 1に示す.

Figure 1.

 graphite structure photographs of 6 types (A,B,C,D,E,Chill)

人工知能の開発は,Sony社製のソフトウェア「Neural Metwork Console」(NNC)を用いて行った.6クラス分類を行うため,出力層にはSoftmax関数を用いた.選別後の画像3360枚(6クラス×560枚)のうち7割を学習に使用し,3割を評価用の未知データとして利用した.また,fading処理を0∼40分行い,B,C型の黒鉛組織は現れず,A,E,D,Chillの順に黒鉛組織が悪化していくような鋳鉄サンプルを計7試料作成した.この試料から100枚ずつ黒鉛組織写真を撮影し,作成したAIにより解析することで,試料一つあたりの平均黒鉛組織割合を算出した.

3 結果

作成したAIの評価データに対する回答をTable 1に示す.

Table 1 Confusion matrix of correct answers (A,B,C,D,E,Chill) and answers by the created AI (A',B',C',D',E',Chill')

評価データに対する回答は平均97.5%の正答率を示した.最も低い正答率はE型黒鉛での回答であり,94.0%の正答率を示した.また,複数の黒鉛組織が混在する写真を作成した人工知能に解析させたところ,AIの出力が存在する黒鉛組織の割合と近い形でわかれた.

AからChillへと悪化する試料の解析結果をFigure 2に示す.

Figure 2.

 Percentage of graphite structure as fading time

Fading timeが長くなるにつれて,A, E, D, Chillの順に黒鉛組織割合が推移していく様子が見て取れる.試料作成の意図と同様の黒鉛組織割合の推移をみせたことから,黒鉛組織が混在する写真からも,正確に特徴を抽出しているものと考えられる.

4 考察

今回作成したAIは,平均正答率97.5%となり,精度も高い値を示した.正答率,精度ともにE型黒鉛の回答において,他よりやや低い値を示す結果となった.E型は,A型とD型の中間の黒鉛組織とされており,ほとんどの場合,A型,D型のどちらかあるいは両方と混在する.そのため,教師データ選別の選別を人間が行っていることが影響していると考えられる.Fading timeによる黒鉛組織割合の推移は,現実の片状黒鉛鋳鉄の黒鉛組織の悪化に即している.したがって,作成したAIにより試料の黒鉛組織割合を解析することで,黒鉛組織の評価を数値的に扱うことが期待できる.

5 結論

今回作成したAIは,直径30 mmの片状黒鉛鋳鉄から撮影したAからChillまでの6種類の黒鉛組織写真を,平均正答率97.5%で判定した.片状黒鉛鋳鉄試料から100枚写真を撮影し,黒鉛組織割合を算出した結果,試料作成時に意図した黒鉛組織の推移がみられた.これらのことから,今回作成したAIにより,片状黒鉛鋳鉄の黒鉛組織写真を解析することで,数値的に黒鉛組織の評価を行えることが期待できる.

References
  • [1]   H. Nakae, (2008), Tyuuzou kougaku, Sangyo Tosyo
 
© 2020 日本コンピュータ化学会
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