Journal of Computer Chemistry, Japan
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Special Contribution
The Past and Future of the Journal of Computer Chemistry, Japan
Keiko NAKAMURA
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2022 Volume 21 Issue 3 Pages A7-A11

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Abstract

コンピュータ化学会創立ならびにJournal of Computer Chemistry, Japanの発行20周年を記念して,創設期の先生がたから受け継いだものと新しい時代の流れに即して変化を重ねてきた部分を振り返るとともに,ジャーナルの現状と未来についての私見を述べる.

Translated Abstract

In commemoration of the 20th anniversary of the founding of the Society of Computer Chemistry, Japan and the 20th anniversary of the first issue of the Journal of Computer Chemistry, Japan, I reflect on what we have inherited from our founders and what we have changed to meet the new trends of the era, describe my personal views on the current status and future.

1 はじめに

私が,日本コンピュータ化学会(SCCJ)と関わり始めたのは,ちょうどSCCJが発足する約2か月前の2001年10月末,発足準備の真っ最中の時期だった.時田澄男教授(現名誉教授)の研究室に技術補佐員として勤務することになり,学会誌の編集幹事をしていた先生のお手伝いで編集に携わることになった.JCCJの創刊号は,前身の化学ソフトウェア学会(The Chemical Software Society of Japan (CSSJ))が発行していたThe Journal of Chemical Software(JCS)との合併号だった [1, 2].統合前,JCSの冊子体発送は当時事務局長だった吉村忠輿志先生が全てボランティアで行っていたと聞いている.

新学会発足に向けて,会則や投稿規定などに関するメールでのやり取りを垣間見て,当時の先生がたの計算化学に対する熱い思いを感じていた.PCのメモリ容量は128-256 MB 外付けの記憶媒体フロッピーディスク容量は2 MB程,今ならスマホで撮影した写真が1枚しか入らない,今では考えられないPC環境だった.創刊当時は,投稿も審査依頼も全て郵送で行っていた.

2 紙からデジタルへ

そんな環境の中でも,SCCJが発足する何年も前から研究者の方々はコンピュータを駆使し, 計算を行い,その成果を世に公表してきた [3].それを牽引していたのがSCCJの前身の計算化学機構(JCPE)と日本ソフトウェア学会(CSSJ)である.SCCJはその二つの学会が統合して誕生した [1].そのような方たちの集まりなので,小さい学会でありながら,web上でジャーナルを公開することに関して世の中より一歩も二歩も先んじていて,発行していたJCSのweb公開は1995年からで,その当時から購読料のかからないフリーアクセスだった.

その中の中心的な役割を果たされていたのが,姫路工業大学(現 兵庫県立大学)中野英彦教授(現 名誉教授)で,中野先生無しには1995年からジャーナル のHTML版をweb公開などということは成しえなかったと思う.採択になった論文を全てTeXで組み・HTML版/PDF版を作成・自前のサーバを使用してweb上で公開という作業をお一人で,ボランティアで行ってくださっていた [2].その後,公開のプラットフォームとして科学技術振興機構(JST)の運用するJ-STTAGEを利用できるようになり,現在に至っている.

3 XMLの壁

JSTは2008年ごろから盛んに「XML形式で論文公開を行う」とセミナー等で宣伝し,2011年にJ-STAGE2からJ-STAGE3にバージョンアップとそれに伴ったXMLファイル形式に対応することを発表していました.中野先生からJCCJもXMLファイル形式に対応しなければならないので,それは相当大変なことで時間もかかるから,早く手段を確立しなければいけないとの助言があり,いろいろ検討した結果,2010年から組版をJapan prepress (JPP)へと移行した.

当時,Document Type Definition (DTD)が多言語に対応していなかったため,日本語でのXML組版は困難を極めたが,JPP 佐藤博氏の尽力で,日本で初めて日本語論文のXML化が実現した [4].これは,2012 年 5 月J-STAGE3 へのリニューアル発表による国際標準 XML での対応より,2年も早い実現である.初期のころは,数式の表示・変換などに難点があったが,改訂を重ね様々なケースに対応できるようになり,今ではほぼ問題なく作成できている.2010年の12月公開論文からXML形式でメタデータを作成したPDFをJ-STAGEにアップロードしていたが,2015年から全文XMLによるHTML版の公開を開始した.

4 TeX原稿の壁

2010年からの組版は,eXtylesで行っている [3]ため,採択後の最終原稿アップロードは全てWord形式でお願いしている.TeXで原稿を作成する著者にとって,TeX→PDF版, TeX→HTML版への変換は容易にできるとのことだが,TeX→Word版への変換は時間と手間だけがかかる無駄な作業と捉えられがちである.「公開用のPDFやHTML版を問題なく作成できるのに,なぜわざわざWord形式にするのか?」という質問を寄せられることも多い.XML形式での作成をeXtylesで行うためには,現在のところword形式のファイル,というのが不可欠になっている.

2013年,九州大学で実施された秋季年会の懇親会で,ちょうど居合わせた著者の方に何気なく「最終原稿wordでお願いします」と声をかけたところ,「えっ? Word?」と絶句されてしまいました.そこで初めて,それは大変手間のかかる作業であると知ることができた.その会話をそばで聞いていた藤田眞作先生が「テンプレート作ろうか」と申し出てくださり,藤田先生・JPP 佐藤さん・中村でTeX原稿対策のミニプロジェクトがスタートしました.組版担当の佐藤さんから「TeXは使う方の好みでいろいろなマクロが使われていて,(特に日本語原稿は)マクロのせいでうまく組版ができない」との意見があり,それを取り入れて藤田先生による和英のテンプレートが完成した.TeX原稿の作成に関して,著者へは「マクロ禁止でテンプレート使用」をお願いしている.

TeXからWord形式への変換は,TeX2Wordというプラグインソフトを使用することにした.2013年懇親会での会話の2か月後,TeX2Wordを使用して変換した初めての論文がJ-STAGE公開となったが,これはTeX2Word 30日間試行版を用いて変換したものである.安価なソフトとは言え,厳しい財政の中「買ったけれども無駄でした」という失敗は許されないので,試行版で問題なく使えることを確認して正規版を購入し,現在も利用している.試行版も正規版も機能はほぼ同じだが,試行版は一括変換ができないので,最初の公開論文は5ブロックに分けて変換してそれをつなぎ合わせた.

その後一連の流れが確立されたので,著者から要望があれば,編集室でTeXからWord形式への変換を行っている.

プラグインソフトのバージョンアップがWindows のOSやMS Officeのバージョンアップに追いつけず,Windows7で問題なくできていたのに,OSが変わったら数式が数式ではなく画像に変換されてしまう等のトラブルにたびたび見舞われて,未だ前途多難である.PDF版ならば数式が画像でもあまり問題にならないが,HTML版では数式として記述できたほうが望ましい.

5 国際発信を目指して

Impact Factor (IF) のついたジャーナルというのは,中野先生が組版・公開を担当していたころからの願いだった.著名なデータベースに登載するにはいくつか必要最低条件があり,JCCJでは日本語論文であっても,英文のタイトル・著者名・Abstract併記する(英語の書誌情報画面の整備),図表のキャプションは英語,Referenceも全て英字表記(英文のないものは英訳ではなくローマ字表記)とすることを長年実施してきた.それにも関わらず,データベース登載の相談に行くと「英語論文100% でなければ意味ないでしょ」と言われる有様で,「10年以上和欧混在誌の登載はない」とのことだった.それならと満を持して2015年12月に英語100%のJournal of Computer Chemistry, Japan -International Edition (JCCJIE)を創刊した.JCCJに投稿された英語論文の中から,編集長の選考によってJCCJIEに掲載している.

6 Web of Science収載

2018年3月初旬にJCCJがWeb of Science Emerging Source Citation Index (ESCI) [5] の収載誌に採択されたとの朗報が飛び込んできた.ESCIは,Science Citation Index (SCI)の掲載基準には達していないのでIFはつかないが,「ジャーナルとして国際的な基準に達しており,かつ今後,質の向上が見込まれるジャーナルを集めたデータベース」ということで,Clarivate Analytics社 (CA社, 米国・ペンシルバニア州フィラデルフィア)のWeb of Scienceに2015年から新たに導入されたデータベースである.著名なデータベースに収載されたということは,大きな前進である.JCCJの年別アクセス数を見ても,収載後は大きな伸びが見られる (Figure 1).

Figure 1.

 Number of JCCJ accesses by year via J-STAGE.

* Number of accesses excluding crawlers.

一方,JCCJに関して「国内ではそれなりの評価を得ているが,海外で評価されているとは言い難い」との厳しい評価をいただくことも有り,英語での発信を強化していくためにこれからも一層努力していく必要があると感じている.ESCIに収載後は,常にScience Citation Index (SCI) 収載に向けたパフォーマンス審査を受け続けることになる.SCIへ収載されるためには,被引用数がかなり大きな要素を占めることになり,論文のアクセス数・ダウンロード数を増加させるためにも海外での評価を上げていく必要がある.

和欧混在誌のJCCJがESCI 収録誌に採択されたということは,「英語論文100% でなければ」という条件は,少し緩和されたのかもしれない.和欧混在誌で当初の一つ目のステップをクリアしてしまったことになるが,苦労して創刊したJCCJIEも大きく育てなければと思った.

JCCJIEの3人の編集長の中から,波田雅彦先生に主担当となっていただき,2020年度1年間のコンサルティングを受けた.コロナ禍でもあり,対面はなくZoomとメールによるコンサルティングとなった.主に,投稿規程の改定と発信力強化のためのコンサルティングで,INLEXIO社が担当してくれたが,「Aims & Scope」の充実や倫理規

このコンサルティングは,「ジャーナルの国際競争力をつけ,ホワイトジャーナルのデータベースとして信頼されているDirectory of Open Access Journals (オープンアクセス学術誌要覧 DOAJ) [6] に採録されること」を最終目的としている.そのための条件が公開論文に二次利用のためのガイドラインを設けて投稿規程に盛り込むことであった.世界的に認知度のあるCreative Commons License (CCライセンス) [7] を使用することにしたが,コンサルティングの内容を何度か役員会に諮った折に一番問題になったのがこの点であった.著作権は守られるのか,原典を明記するということになっているがそれは性善説に基づくもので,法律的に守られるものにはなっていないのではないか等,議論に多くの時間を割くこととなった.

論文がより広く,より多くの人たちに読まれ,利用されて科学の発展につながることは望ましいけれど,それが著者や学会の不利益になるような使われ方をしてほしくない(変な風に切り取られて似非科学や民間療法などの根拠にされたくない),苦労して研究した成果は,その対価として研究者名と一緒に広まって欲しい,などの出版側の願いと現代社会が求めている「研究成果をより容易にできれば無料で利用したい」という願いとの乖離を強く感じた1年間だった.最終的にJCCJIEでは,3段階のCCライセンスを設定し,著者に選んでもらう形にした.詳しくはJCCJ投稿画面 [8] 右上[Instructions & Forms] の中の"JCCJIE Instructions to Authors"を参照. CCライセンス付きの論文の公開数がDOAJの採択基準に達したら,DOAJへの申請をする予定である.

JCCJ/JCCJIEに関して,欠かすことができない存在がJCS時代から英文の校閲をおこなってくださったカナダのBrian T. Newbold先生(Moncton大学名誉教授)である.Newbold先生が校閲してくださることで,英文としての質を保持することができた.

途中2年ほど上智大学短期大学部学長だったP. F. Scott Howell先生と2名体制だったが,2012 年にHowell先生がご逝去されてから,再び1名体制になった.2017 年度にはSCCJ功労賞受賞,2018年春季年会表彰式でのオンライン接続はかなわなかったが,日本語に翻訳して読んでほしいとメッセージをいただき(Figure 2),時田先生が翻訳,後藤事務局長に読み上げていただいた.

Figure 2.

 The Award for distinguished Contribution to SCCJ@the Annual Spring Meeting 2018.

その様子を撮影した表彰式のビデオを時田先生が編集してお送りしたところ,大変喜んでくださった.

創刊当時はほぼボランティアで,学会の財政が厳しくなってからは完全ボランティアで700報を超える論文の英文校閲をしてくださった.先生とのお約束で依頼は全て航空便でお送りしていたので日数がかかったが,受け取られてからはすぐにチェックを開始して,メールで回答をくださった.折に触れ「JCCJの英文チェックは私の大きな喜びで,楽しくやっているよ」と温かいメッセージを寄せてくださった.大の日本びいきでいつも学会や編集室のことを気にかけてくださり,英文チェックの連絡の合間にも,東日本大震災時にはお見舞いのメールを,コロナ禍の折には「自宅待機でどこにも出かけられないので,ミフネ映画を見ている(たくさんのタイトルリスト)」,また,「Post Officeがストライキ中なので,郵便が遅延すると思うよ」(結構たびたびあった)なども知らせてくださった.コロナ禍でカナダへの航空便受け入れ停止が繰り返された2020年の英文校閲は困難を極めた.

2021年1月,高齢とご体調の関係で英文校閲の仕事を終わりにしたい旨のご連絡をいただいた.とても残念だったが先生のご決断を受け入れ,以後は著者の方へ英文校閲を実施していただく形に変更した.

長年の先生のご尽力に深く感謝するとともに,ご体調に留意しながら心地よい日々を過ごされることを祈念している.

7 未来に向けて

長らく著名なジャーナル に掲載されることが「信頼に値すると証明された論文」を広く世に知らしめる大きな手段であった.今でも大きな手段には違いないが,ICTやAIの発達により少し様変わりしてきたように感じている.海外発信も,翻訳機能の大幅な向上により,論文の言語に対するハードルがかなり低くなってきている.英語100%でなければという制約が緩和されてきたのも,その影響が大きいと推測している.論文をwebで発信することに対しても,以前は「太平洋の中を漂う釣り船を見つけるようなものだ」と言われていたが,検索機能の充実により,読者が目的とする論文を見つけることが容易になった(ジャーナル に依存せず一本釣りができる).著者もタイトルと目的に合ったKeywordの設定をすることで,よりターゲットを絞れるようになった.読者側にリテラシーがあれば,その論文が信頼に値するものかどうかを判断することができる.

ジャーナルへの投稿ではなく,プレプリントサーバというものも盛んに開設されてきた.研究者個人がサーバに論文を投稿し,その投稿に興味を持った研究者たちが内容に関して自由にコメントができるようになっている.よりオープンな査読と言えるかもしれない.日本でも,JSTが2022年3月に初めて日本語論文にも対応するプレプリントサーバ "jxiv" を開設した [9].公的機関がプレプリントサーバを開設という流れは,そう遠くない将来,査読,ひいてはジャーナル編集の存在意義が問われる時代が来るのかもしれない.それは同時に,社会を混乱させてしまうようなエビデンスのはっきりしない怪しい原稿が検索結果の上位に表示される危険性もはらんでいる.それを考えると,ジャーナルにはまだ果たすべき役割があるのではと期待も持っている.生き残りをかけて,ジャーナルの信頼性を高めるための工夫をしていきたい.

8 終わりに

2008年に特別功労賞のお話があった折,長嶋雲兵副会長に「功績がないのにいただいてもよいのでしょうか」とお尋ねしたところ,「もっと働きなさい,ということだよ」と言われ,有難くいただくことにした.その言葉に違わぬようにという思いを胸に,努めてきた.至らない点も多々あったかと思うが,ここまで来ることができたのは,ひとえに1から編集を教え,お導きくださった時田澄男先生はじめ,編集室の太刀川達也先生,細矢治夫会長,長嶋雲兵副会長,後藤仁志事務局長,中野英彦先生,役員の先生がた,事務局の曽々木志穂さん,和多田裕子さん,岩瀬智美さんのお陰です.JapanPrePress 佐藤博様にもJ-STAGE公開に関して全面的にサポート頂いている.全ての方のお名前をあげることができないが,本当にたくさんの方々のお力添えをいただき,Journalを発刊し続けてこられた.お世話になった皆様に,心から感謝申し上げる.

玉稿をお寄せくださった著者の方々,お忙しい中審査をお引き受けくださった先生方,皆様がいらっしゃらなければジャーナルは成り立ちません.長年のご尽力に深く感謝するとともに,30周年に向けてより一層のご支援を賜りたくお願い申し上げて,結びとする.

References
 
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