Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
積層芳香族性を有するπスタック単分子接合の伝導特性に関する理論的研究
岡澤 一樹辻 雄太吉澤 一成
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2022 年 21 巻 4 号 p. 87-89

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Abstract

π-stacked single-molecule junctions stacked with π-conjugated molecules have the potential to be used as building blocks for single-molecule scale three-dimensional integrated circuits. In this study, we investigate the relationship between π-stacking distance and conductance in face-to-face π-stacked single-molecule junctions with benzene as the monomer unit using the non-equilibrium Green's function (NEGF), which combines the Hückel molecular orbital (HMO) and density functional theory (DFT) methods. As the π-stack distance between two benzene molecules decreases, the pseudo-para junction, which is insulating, turns conductive. Furthermore, it was found that the cause of this change can be explained by orbital interactions.

Translated Abstract

π-stacked single-molecule junctions stacked with π-conjugated molecules have the potential to be used as building blocks for single-molecule scale three-dimensional integrated circuits. In this study, we investigate the relationship between π-stacking distance and conductance in face-to-face π-stacked single-molecule junctions with benzene as the monomer unit using the non-equilibrium Green's function (NEGF), which combines the Hückel molecular orbital (HMO) and density functional theory (DFT) methods. As the π-stack distance between two benzene molecules decreases, the pseudo-para junction, which is insulating, turns conductive. Furthermore, it was found that the cause of this change can be explained by orbital interactions.

1 はじめに

近年,緻密化に関して限界に達しつつあるシリコンベースのデバイスに代わる次世代デバイスとして,単一のπ共役分子で構成されている単分子接合が注目されている.単分子接合は,単一の有機分子が電極間に挟まれた構造を有している.単分子接合の電気伝導特性は,量子論的な効果が支配的であるため,マクロスケールとは異なる電気伝導特性を示すことが知られている [1].そのため,単分子接合の電気伝導特性に関する研究が,実験,理論の両面から盛んに行われている.

積層したπ共役分子を用いた単分子接合は,単一分子スケールの三次元集積回路の構成単位として利用できる可能性を有する.近年,積層したπ共役環状分子は積層芳香族性という特性を有することが明らかになっている [2, 3].平面π共役系において,単分子接合の伝導度と芳香族性の間には負の相関があることが知られている [4].しかし,積層したπ共役単分子接合の伝導度と積層芳香族性の関係については明らかになっていない.そこで本研究では,積層芳香族性を有する単分子接合の伝導特性について明らかにすることを目的とする.本論文では,芳香族分子をモノマーユニットとした積層反芳香族性単分子接合の伝導特性について述べる.

2 計算方法

本研究では,芳香族ユニットとしてベンゼンを採用した.2つのベンゼンユニットをface-to-faceに配置し,πスタック距離を小さくすると,ベンゼンの芳香族性が失われることが理論計算により明らかになっている [5].そのため,ベンゼンのface-to-face配置について,コンダクタンスを計算した.単分子接合の電気伝導度は,一方の電極から他方の電極への電子の透過確率に比例することが知られている [6].本研究では,非平衡Green関数法(NEGF)と量子化学計算(Hückel分子軌道法(HMO)及び密度汎関数理論(DFT))を組み合わせた方法を用いて電子透過確率の計算を行った.HMOを用いて電子透過確率の計算を行うには,πスタック方向の共鳴積分を定義する必要がある.πスタック方向の共鳴積分 β ππ はMullikenの式に基づいて,以下のように表す [7].   

β ππ = e p ( 1 p 1 5 p 2 + 2 15 p 3 + 1 15 p 4 ) S 0 β (1)
ここで,S0は炭素原子間距離1.4 Åのπ結合における重なり積分,βはπ結合の共鳴積分,そしてpは距離の関数である.NEGF–DFT法に用いる電子状態の計算はGaussian 16プログラムを使用し,B3LYP-D3/LanL2DZレベルで計算した.NEGF–DFT法による電子透過確率の計算にはArtaiosプログラムを用いた [8].

3 モノマーユニット間のπスタック距離と伝導度の関係

πスタック距離とNEGF-HMO及びNEGF-DFTを用いて計算された電子透過確率の関係をFigure 1に示す.2つのベンゼンユニットのface-to-faceスタッキング構造において,pseudo-para位に電極を繋ぐと絶縁性を示し,pseudo-meta位に電極を繋ぐと伝導性を示すことが知られている [9, 10].NEGF-HMO法により計算された電子透過確率の大小関係は,πスタック距離に依らずpseudo-meta > pseudo-paraとなった(Figure 1 (a)).一方,NEGF-DFT法による結果は,2.2 Å以下の領域において電子透過確率の大小関係がpseudo-para > pseudo-metaとなった(Figure 1 (b)).これらの結果から,近接πスタック領域の電気伝導特性を示すには,NEGF-HMO法では考慮されていない相互作用が重要となることが考えられる.

Figure 1.

 Transmission probabilities T(EF) as a function of π-stacking distance. T(EF) are calculated by using (a) the NEGF-HMO and (b) the NEGF-DFT.

4 伝導特性の分子軌道論的考察

NEGF-HMO法とNEGF-DFT法の結果の違いについて,分子軌道を用いて考察する.単分子接合のコンダクタンスは,単分子接合を構成しているπ共役分子の分子軌道のエネルギー準位,及びそのエネルギー準位における軌道係数の大きさで示される [11].本研究で用いたモデルのπスタック距離と分子軌道エネルギーの関係についてFigure 2に示す.HMOにおける分子軌道のエネルギー準位は常にFermi準位に対して対称に分裂していることが分かる(Figure 2 (a)).この結果は,奇数員環を含まない分子は必ずFermi準位に対して対称に分裂するというHMOの特性によるものである [12].一方,DFTにおけるKohn-Sham軌道のエネルギー準位は,近接πスタック領域において非対称な変化をしている(Figure 2 (b)).近接πスタック領域における最高被占軌道(HOMO)及び最低空軌道(LUMO)をFigure 2 (c)及び(d)に示す.Figure 2 (c)より,HOMOにおけるπ平面に対して垂直方向,及び斜め方向の軌道相互作用は反結合的である.一方で,Figure 2 (d)より,LUMOにおけるπ平面に対して垂直方向,及び斜め方向の軌道相互作用はそれぞれ結合的,及び反結合的である.πスタック距離が小さくなったときのHOMOのエネルギー準位の変化量の絶対値は,LUMOのエネルギー準位の変化量の絶対値よりも大きくなることが分かる.これらの結果より,近接πスタック領域では,一方のモノマーユニットの原子と他方のモノマーユニットの最近接している原子間の結合だけでなく,最近接原子と隣接している原子間の結合も考慮する必要があると考えられる.

Figure 2.

 Energy levels of π-orbitals calculated by using (a) HMO and (b) DFT as a function of π-stacking distance, and (c) HOMO and (d) LUMO at R = 1.7 Å. In (c) and (d), the blue and red lines indicate bonding and antibonding orbital interactions, respectively.

Hückel Hamiltonianに斜め方向の相互作用を考慮したmodified Hückel Hamiltonianを用いて電子透過確率を計算した.斜め方向の相互作用の共鳴積分は以下の通りである.   

β = C ( θ ) exp ( r ) (2)
ここで,C(θ)はσ結合軸を基準とした角度に依存する関数である.Modified Hückel Hamiltonianを用いたときのπスタック距離と電子透過確率の関係を Figure 3に示す.Figure 3の傾向は,NEGF-DFT法により得られた傾向を再現していることが示された.

Figure 3.

 Transmission probabilities T(EF) as a function of π-stacking distance. T(EF) are calculated by using the NEGF-modified HMO.

5 まとめ

本論文では,芳香族分子をモノマーユニットとした積層反芳香族性単分子接合のπスタック距離と伝導特性の関係について議論した.πスタック距離が小さくなると,絶縁性を示していたpseudo-para接合が伝導性へと変化することが明らかになった.さらに,その原因は軌道相互作用によって説明できることが明らかになった.

本研究は,日本学術振興会(JSPS)の科研費(JP21K04996, JP22H00335),及びJST科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業JPMJFS2132の助成によって実施された.

謝辞

本研究は,日本学術振興会(JSPS)の科研費(JP21K04996, JP22H00335),及びJST科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業JPMJFS2132の助成によって実施された.

参考文献
 
© 2022 日本コンピュータ化学会
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