Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Theoretical Investigation of Racemization of Amino Acid using Organic Catalysts
Natsuki WATANABEMitsuo SHOJIYuta HORIYasuteru SHIGETA
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2022 Volume 21 Issue 4 Pages 80-81

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Abstract

Racemization of amino acid catalyzed by aldehyde and carboxylic acid has been proposed and widely used. Herein, we investigated the detailed racemization mechanism of alanine catalyzed by salicylaldehyde and acetic acid. Quantum chemistry calculations based on the density functional theory demonstrated that the dehydration reaction is the rate-determining step, and this dehydration step is enhanced by surrounding water molecules. We also discussed the dependence of the reaction rates on the type of amino acid.

Translated Abstract

Racemization of amino acid catalyzed by aldehyde and carboxylic acid has been proposed and widely used. Herein, we investigated the detailed racemization mechanism of alanine catalyzed by salicylaldehyde and acetic acid. Quantum chemistry calculations based on the density functional theory demonstrated that the dehydration reaction is the rate-determining step, and this dehydration step is enhanced by surrounding water molecules. We also discussed the dependence of the reaction rates on the type of amino acid.

1 序論

アミノ酸のラセミ化反応は,アミノ酸の年代測定やタンパク質の老化,鏡像異性体過剰率の増幅機構等に関連する重要な化学反応である.工業的応用としては,光学分割により生じた不要なエナンチオマーの再利用等に用いられる.一般的なアミノ酸のラセミ化反応では,α位のプロトンを引き抜くことでキラリティを変化させるが,アミノ酸単体でラセミ化を引き起こすのは困難であるため,強酸や強塩基,金属イオン等の触媒を必要とする.一方で,アルデヒドとカルボン酸の有機分子触媒を用いたラセミ化反応が提案されている [1].本ラセミ化手法は複数のαアミノ酸に対して適用されており,アミノ酸の種類によってラセミ化の進行度は大きく異なる [1].例えば,サリチルアルデヒドと酢酸を触媒として,80–100 °Cで1時間熱した場合,アラニン(Ala)やアルギニン(Arg)では完全にラセミ化するのに対し,アスパラギン酸(Asp)では6%,グルタミン酸(Glu)では36%がラセミ化する.この原因について,先行研究ではAspやGluは酢酸水溶液にほとんど溶解しないためであると考察しているが [1],同様の手法をAspやGluに適用して実験を行っている研究もあり [2, 3],より効率的なアミノ酸のラセミ化反応手法の提案が求められている.そこで本研究では,密度汎関数理論(DFT)を用いてラセミ化反応の反応経路を明らかにし,律速過程を決定することを目的とした.

2 計算方法

本研究ではサリチルアルデヒドと酢酸を触媒としたAlaのラセミ化反応を検討する.これまでに提案されているアミノ酸ラセミ化反応の推定機構 [1]をもとにその反応経路中の全ての反応中間体と遷移状態をDFT計算により探索した.このラセミ化反応は水溶液中で進むため,双極性型アミノ酸を用いた反応を仮定して計算を行った.すべてのDFT計算はGaussian 16 [4]を用いてB3LYP/6-311++G (d,p)レベルで行い,水の溶媒効果を分極誘電体モデル(PCM),および水分子を露わに考慮に入れたモデルで取り入れた.アミノ酸に関する先行研究 [5]から,本計算レベルはCCSD (T)/cc-pVTZと同等の結果が得られると期待される.

3 結果・考察

DFT計算によりIM1–IM10の10つの反応中間体とTS1–TS5の5つの遷移状態が得られた.Figure 1に得られた反応経路とエネルギープロファイルを示す.IM9–IM10においてα位のプロトンが引き抜かれることによって,アキラルな分子(IM10)が生成される.Figure 1 (a)の反応経路の正反応と逆反応が進むことでα水素の立体配置が変化し,分子のキラリティがランダムに変化する.したがって,十分な時間が経過して平衡状態に至ると系はラセミ体となる.この反応の律速段階はIM7からIM8への脱水反応で,活性化エネルギーは61.9 kcal mol–1となった.また,ラセミ化が起こる過程(IM9–IM10)の活性化エネルギーは30.8 kcal mol–1となった.

Figure 1.

 (a) Obtained racemization pathway and (b) its calculated energy profile. The unit of energy is kcal mol–1.

律速段階であるIM7からIM8への脱水反応について,水分子を露わに考慮して遷移状態(TS4)の計算を行うと,活性化エネルギーが大きく低下した(Figure 2).ここで,TS4-1とTS4-2はそれぞれ水分子1個と2個を加えた場合である.TS4-2では活性化エネルギーが47.2 kcal mol–1となり,TS4に比べて活性化エネルギーが明らかに減少した.先行研究の実験では,80–100 °Cで熱しながら行われたことから,妥当な活性化エネルギーであると考えられる.このことから,このラセミ化反応には水が触媒として機能していることが示唆される.しかし,依然としてTS4は律速段階であり,脱水反応を触媒する分子を反応に加えることでより効率的なラセミ化が行えると考えられる.

Figure 2.

 (a) The dependence of the activation energy of TS4 on the number of added water molecules (n), which abbreviated as TS4-n, and (b) the structure of TS4-2.

また,本研究で得られた反応経路では,Alaの側鎖のメチル基が反応に関与する様子は見られないため,側鎖が反応に及ぼす影響は小さいものと推測される.AspやGluなどのアミノ酸で反応の進行が遅い原因については今後の検討課題としたい.

謝辞

本研究は,JSPS科研費(JP21H05419, JP22H04916)による研究費支援,ならびに筑波大学計算科学研究センター学際共同プログラムによる大型計算機Cygnusの利用支援を頂きました.

参考文献
 
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