Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
Keggin型ポリオキソタングステートの合成経路に関する研究
石上 快大堺 利行中嶋 隆人枝 和男
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2022 年 21 巻 4 号 p. 85-86

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Abstract

Synthetic pathways of Keggin-type polyoxotungstates (POTs), which are expected to catalyze multi-electron transfer reactions, were investigated by first-principles calculations. The reaction pathways for the formation of new Keggin-type POTs from existing ones via ion exchange were explored by the Nudged Elastic Band (NEB) method, and the effects of the kind of heteroatom and the relative permittivity of the solvent were discussed.

Translated Abstract

Synthetic pathways of Keggin-type polyoxotungstates (POTs), which are expected to catalyze multi-electron transfer reactions, were investigated by first-principles calculations. The reaction pathways for the formation of new Keggin-type POTs from existing ones via ion exchange were explored by the Nudged Elastic Band (NEB) method, and the effects of the kind of heteroatom and the relative permittivity of the solvent were discussed.

1 はじめに

Keggin型ポリオキソタングステート(POT)は,球状の[W12O40]8−の殻の中に,ヘテロ原子X z+を閉じ込めた構造を持つ多核金属酸クラスターである.先行研究から,イオン半径が大きく電荷の小さな原子(Cd2+等)をヘテロ原子Xとして導入したKeggin型POTは多電子移動反応(合成燃料の生成等に必要となる反応)の触媒となり得ることが期待される [1].しかし,Keggin型骨格のサイズはヘテロ原子によらずほぼ一定であるため,このような原子の導入は難しいと予想される.

本研究では,この原子導入を実現する合成法の開発のため,①キャップ部が欠損したKeggin型POT [W9O34H8]6−へのプロトンとのイオン交換によるヘテロ原子の導入反応と②キャップ部除去・形成に関わるKeggin型POTのキャップ形成反応について,密度汎関数理論に基づいた第一原理計算により詳細に調べた(Figure 1).

Figure 1.

 The studied reactions.

2 方法

反応①ではヘテロ原子X = Cu+, Cd2+, Zn2+, In3+, Sn4+, Si4+, P5+とする系を,反応②ではX = P5+とし,ヒドロキシ基対の反応による脱水縮合として三量体が一段で縮合する系([PW9O34H6]3− + [W3O12H6] → [PW12O40]3− + 6H2O)と三つの単量体が逐次三段で縮合する系([PW9O34H6]3− + 3[WO5H4] → → → [PW12O40]3− + 9H2O)を計算対象とした.溶媒の効果を調べるため,COSMO法を用いて比誘電率ε = 35, 49, 78での計算も行った.計算プログラムにはNTChem [2]を用い,反応経路探索はNudged Elastic Band (NEB)法により行った.計算レベルはωB97XD/Def2-SVPとし,W, Cd, In, Snには相対論効果が織り込まれた有効内殻ポテンシャルを使用した.

3 結果と考察

反応①を調べたところ,いずれの場合も最小エネルギー経路を得ることができた.経路のエネルギーダイアグラムの形はヘテロ原子の種類と真空下(ε =1)か溶媒存在条件下(ε = 35, 49, 78)の違いによって異なるが,溶媒存在条件下の方が真空下より反応はより発熱的に進み,いずれの系においてもそのエネルギー障壁は100 kJ mol−1以下であった.誘電率導入による変化は価数の大きなX = P5+で特に顕著であった(Figure 2).経路に沿った構造の変化を確認すると,骨格の酸素とヘテロ原子は静電的な相互作用のため,Keggin型骨格の配置から外れたエネルギーの高い構造を経由して変化する傾向がある.誘電率の導入は,この相互作用を緩和し,安定な構造への移行を起こりやすくすると考えられる.

Figure 2.

 Energy diagrams of the minimum energy pathways for reaction ① (X = P5+).

反応②についても,三量体の縮合と単量体の逐次三段での縮合の両方で最小エネルギー経路を得ることができた.その結果に基づくと,誘電率を選べば三量体の縮合の方が単量体の逐次三段での縮合よりエネルギー的に有利に進むことがわかった.そしてそれは単量体の結合配置の自由度の高さによるものと見受けられ,エネルギー的に不安定な構造を経由して反応が進行する場合が多かった.また,これらの縮合反応では,ヒドロキシ基対間の強い結合が必要で反応①と異なり,真空下での反応は必ずしも不利ではなかった.そして三量体の縮合反応のエネルギー障壁の値は複雑な誘電率依存性を示した(Figure 3).これは,この系では脱水縮合の際にプロトンの受け渡しに関わるサイトが多く,関わるサイトの違いなどにより三量体のイオン化状態のエネルギー的安定度が溶媒の誘電率によって異なる影響を受けるためと考えられる.

Figure 3.

 Energy diagrams of the minimum energy pathways for reaction ② (trimer).

4 結論

イオン交換によるKeggin型POTの合成経路を第一原理計算によって調べた.反応①と②では誘電率の寄与は全く異なり,目的の合成には過程を分けた合成の必要が示唆された.また,反応②については単量体の逐次三段での縮合反応と比べ,三量体の一段での縮合反応が有利に進むことも示された.

謝辞

本研究はJSPS科研費 JP18K05274, JP21K05229の助成を受けたもので,計算は計算科学研究センター(Research Center for Computational Science)のスーパーコンピュータと上記科研費経費で購入されたワークステーションを用いて実施された.

参考文献
 
© 2022 日本コンピュータ化学会
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