2022 Volume 21 Issue 4 Pages 129-133
Multi-element alloy nanoparticles have attracted attention for their potentially high catalytic properties. However, a high degree of freedom in configurations of metal atoms within nanoparticle increases the distinct adsorption sites, making it difficult to theoretically analyze its catalytic properties because the first-principles calculation requires a considerable computational cost. In this study, we develop a sequential scheme to calculate hundreds of adsorption sites by employing a pre-trained universal neural network potential named PFP. Our automated scheme is applied to CO single-molecule adsorption of CO onto PtRuIr ternary alloy nanoparticles. The calculation results are first compared with DFT results to confirm the accuracy. Adsorption energies in the alloy systems are widely distributed in comparison with those of the monometal counterparts, indicating that the alloy nanoparticle includes adsorption sites with various catalytic activities.
複数の金属元素を用いて合金とする場合, 原子レベルでは混和し固溶体を形成するものと, 混ざらずに分離する組み合わせが存在する. 実際, 60余りの金属元素の組み合わせのうち, 混ぜ合わせることができるのは約3割と言われている. 他方, 直径数nm以下のナノ粒子では, 表面エネルギーの影響が大きくなることや, 表面形状によって配置の状態数が増大することによる配置エントロピーの寄与によって, バルクでは分離する元素同士でも固溶体ナノ粒子を形成することが報告されている [1]. そのような固溶体の多元素合金ナノ粒子を合成することで, 従来よりも優れた触媒などへの用途が期待されており, その安定性や反応性の解明が重要となっている.
ナノ合金の安定性および反応性に対して計算化学手法による取り組みを考える場合, 多元素合金中の各元素の配置の組み合わせ爆発に直面する. 例えば, 201原子からなる三元系合金ナノ粒子A67B67C67を想定するとき, 対称性を考慮しない配置の組み合わせの数は3×1093通りにもなる. 密度汎関数理論(Density Functional Theory, DFT)に基づく第一原理計算ではエネルギーの高精度な予測が可能であるものの, このような膨大な配置の自由度がある多元素ナノ合金粒子に適用することは現実的ではない. そこで難波らは, Wang-Landauサンプリングに基づくマルチカノニカルモンテカルロ法によって安定な元素配置を求める手法を開発し, 三元系ナノ合金粒子の安定な配置を明らかにした [2].
多元素ナノ合金粒子の元素の配置が求まった後の次の課題として, どのような触媒活性を示すか予測することが挙げられる. しかし, ナノ合金粒子は多くの吸着サイトを持ち, 触媒活性における基本的な指標となる吸着エネルギーをDFT計算で網羅的に評価することが困難であるため, 計算の高速化が必要である. 深層学習の近年の発展とあいまって, 大量のDFT計算の結果をデータセットとして原子間の相互作用を学習し再現する汎用ニューラルネットワークポテンシャル(Neural Network Potential, NNP)が発展してきており, DFT計算に近い計算精度を保ちながら, DFT計算より圧倒的に高速に予測を行うことができるようになってきている. その中でPreferred potential (PFP)は, 72元素に対応しており, リチウムイオン電池, 金属有機構造体, 触媒の材料探索への適用が報告される汎用NNPである [3,4,5]. 本研究ではこのPFPを用いて, PtRuIr三元ナノ合金粒子触媒上へのCO吸着特性を高速に評価するスキームの開発を目的とし, 吸着モデルを連続して計算するプログラムを作成し, 三元系ナノ合金粒子へのCO分子の吸着特性を評価する.
約2 nmの201原子からなる切頂八面体のPtRuIrモデルを作成した. 第一原理計算と機械学習の組み合わせから様々な配置の安定性を予測するための回帰式を構築し, マルチカノニカルモンテカルロシミュレーション [2]により安定構造を予測した. 予測から得られた1,000 KでのPtRuIrの安定配置にCOを吸着させたモデルを考慮した(Figure 1). また, 単元系についてはバルク結晶の表面と比較するため, スラブモデルを作成した. Pt, Irはfcc構造の(111)面を, Ruはhcp構造の(0001)面の6×6のスラブモデルを計算に用いた. 厚さは6層, 真空層は15 Åとし, CO 1分子を表面に吸着させた. 吸着面とは逆の下層2層を固定し, 構造最適化計算を行った.
Structures of the PtRuIr 201-atom nanoparticles with stable configuration at 1,000 K obtained by the multi-canonical Monte Carlo simulation.
ナノ粒子上に存在するすべてのon-top, bridge, 3-fold hollow, 4-fold hollowサイトを自動で探索するプログラムを作成し, CO 分子を吸着させたモデルを各ナノ粒子の全ての吸着サイト649通り全て作成した(Figure 2). 汎用NNPシミュレーションによる構造最適化計算には, BFGS(Broyden-Fletcher-Goldfarb-Shanno algorithm)法を選択し, 力の閾値は0.001 eV/Åとした. 構築した吸着モデルを連続して構造最適化し, 吸着エネルギーを評価するためのプログラムを作成し, ハイスループットでの吸着特性予測のためのシミュレーション基盤を構築した.
Structures of CO adsorption on (a) on-top, (b) bridge, (c) three-fold hollow, and (d) four-fold hollow site.
PFPは,あらゆる構造に対してPBE汎関数およびPAW法を用いたDFT計算のエネルギーを再現することを企図した汎用NNPである.しかし, PFPの学習データセットは本研究で扱う多元素ナノ合金に向けて合わせこまれたものではないため, 本研究の対象に対しても十分に汎化しているかについて, その妥当性を検証する必要がある [3].
PFP計算結果の妥当性を検証するため, DFT計算およびPFP計算におけるPt41Ru80Ir80のCO吸着エネルギー値の比較を行った. DFT計算はVASP (Vienna ab initio simulation package [6, 7]) を用いた. カットオフエネルギーは400 eVを, k点はΓ点のみを用いた. 交換相関汎関数はGGA-PBEを用い, 内殻電子と核の相互作用にはPAW, 分散力補正はDFT-D3 [8, 9]を用いた. SCF計算の閾値は1.0 × 10−5 eV, 構造最適化の力の閾値は1.0 × 10−4 eV/Åとした. 吸着モデルのサンプリング手法について述べる. まず, Pt41Ru80Ir80の吸着サイト計649配置の構造データを用意し, PFP計算を行い, COの結合長および吸着エネルギーを算出した. 吸着サイトの各種類に対して, 計算数の比率に応じてサンプルを抽出した. サンプリング手法として, 吸着エネルギーについて最小値および最大値をとる配置を探索し, それらから最も距離が遠いサンプルを選出する手法(最遠点サンプリング)を採用した. 距離の基準となる数値はCOの結合長および吸着エネルギーを利用した. 112配置を抽出し, DFT計算の初期構造とした.
初期構造, 構造最適化計算, 吸着エネルギー評価を自動化し, 情報をCSVファイルとして自動で書き出すプログラムを開発した. これらの自動化によって, たくさんの吸着構造のデータ収集を手作業で管理することなく実行できるようになり, Figure 2に示す7つの組成のナノ粒子の全ての吸着サイト(649×7 = 4,643配置)について吸着モデル作成から構造最適化までを所要時間: 36時間で計算することができた. DFT計算では, 一つの吸着サイトに対し4ノード144コアのクラスター計算機を用いて約8時間40分であり, 全てを処理するには4年以上かかると見込まれる. したがって, 本研究の手法は従来からの大幅な高速化を達成している.
DFT計算およびPFP計算によるCO吸着エネルギーの比較をFigure 3に,
吸着エネルギーの平均絶対誤差(MAE)をTable 1に示す. 吸着エネルギー
(1) |
(2) |
Scatter plot of adsorption energy of a CO molecule to the Pt41Ru80Ir80 nanoparticle for each adsorption sites obtained by PFP compared to the ones obtained by DFT.
On-top Ir | On-top Pt | On-top Ru | On-top overall | bridge | 3f hcp | 3f fcc | Overall | *1 | |
MAE of εads in eV | 0.123 | 0.035 | 0.109 | 0.108 | 0.119 | 0.095 | 0.198 | 0.118 | 0.097 |
*1 MAE of activation energy of Methane on Co(0001) slab by PFP in literature [3]
ここで,
単元素系ナノ粒子モデルおよびスラブモデルにおける吸着エネルギーの差異の検証を行った. ナノ粒子モデルについてPt, Ru, Irは, fcc構造であり, なおかつ201原子の切頂八面体を用いて, その表面にCO 1分子を吸着させた. 最終構造の吸着サイトはon-top, bridge, 3-fold hollowを比較対象とした. ナノ粒子モデルの場合, 表面形状が複雑なため配位数の異なる多くの吸着サイトが存在する. したがって, 全ての吸着サイトにおけるCOの吸着エネルギーの平均値を用いてスラブモデルにおける値と比較した. ナノ粒子モデルおよびスラブモデルのCO吸着エネルギーの値をTable 2に示す. 単元素系ナノ粒子モデルとスラブモデルのCO吸着エネルギーについて, スラブモデルではCO吸着がPt, Ru, Irの順に強くなる傾向があった. 一方, ナノ粒子モデルではナノ粒子のon-topサイトに限ればPt, Ru, Irの順に強くなる傾向がみられたが, bridge, 3-fold hollowサイトでは明確な序列が確認されず, 全体的に同程度の吸着の強さがあることが示された. この変調の起源については今後, さらなる検討をしていく必要がある.
Ir | Pt | Ru | ||||||||||
On-top | bridge | 3f hcp | 3f fcc | On-top | bridge | 3f hcp | 3f fcc | On-top | bridge | 3f hcp | 3f fcc | |
Slabεads | -2.444 | -2.374 | -2.386 | -2.392 | -1.959 | -2.141 | -2.137 | -2.117 | -2.185 | -2.246 | -2.200 | -2.246 |
NanoparticleAve. of εads | -2.409 | -2.044 | -2.044 | -2.071 | -2.065 | -2.020 | -1.964 | -1.967 | -2.125 | -2.254 | -2.139 | -2.128 |
単元素系から合金化による吸着エネルギーの差異を検証するため, 単元素系ナノ粒子モデルおよび三元系ナノ合金粒子モデルのPFP計算を行い, COの結合長および吸着エネルギーについて比較した. PtRuIrの組成は7通りあり, 7×121=4,643配置の構造データを生成した. 単元素系についてはPt201, Ru201, Ir201の3通り×121=363配置である. 構造最適化計算を行い, 最終構造がon-topサイトとなるものを抽出し, 比較対象とした. 計算条件は前述の通りである. グラフをFigure 4に, それぞれの値をTable 3に示す. Figure 4(a)に示す単元系への吸着に比べ, Figure 4(b)に示される合金系は吸着エネルギーが広範囲に分布しており, その標準偏差はTable 3に示すように, 合金系の方が大きい. ここで, 吸着エネルギーの標準偏差sは式(3)によって計算される.
(3) |
Scatter plot of on-top adsorption energy of a CO molecule against the CO bond length for (a) the monometal nanoparticles and for (b) the PtRuIr alloy nanoparticles.
Monometal nanoparticle | Alloy nanoparticle | |||||
Ir | Pt | Ru | Ir | Pt | Ru | |
-2.409 | -2.065 | -2.125 | -2.230 | -1.872 | -2.042 | |
Std. dev. of |
0.201 | 0.248 | 0.153 | 0.242 | 0.283 | 0.137 |
ここで,
本研究では, 合金ナノ粒子の持つ膨大な吸着サイトに対する分子吸着特性を評価することを目的として, 汎用NNPモデルの一つであるPFPを用いた吸着エネルギー評価自動化プログラムを構築し, 三元系合金ナノ粒子へのCO吸着について解析を行った. PFP計算の妥当性について, PFP対DFT計算の平均絶対誤差は先行研究 [3]と比較して同程度であり, 合金ナノ粒子の計算においても十分な精度が得られた.
現時点では, PBEと同程度の精度でのスクリーニングが可能であることが示唆された. 今後, PBEより高度な汎関数を用いた評価が再現されることも期待され, さらに多くの系へと展開する上で, 本研究のような自動化のアプローチがその他の系や物性への適用が可能になると考えられる. 本研究で開発した自動化スキームは, 4,643配置の吸着サイトについて吸着モデル作成から構造最適化までを所要時間36時間で計算することができ, 従来のDFT計算に対し大幅な高速化を達成した. その自動化プログラムを用いて, 単元素系ナノ粒子モデルおよびスラブモデルのCO吸着エネルギーを比較した. ナノ粒子モデルでは, on-topサイトに限ればPt, Ru, Irの順に吸着が強くなるスラブモデルと同様の傾向がみられたが, bridge, 3-fold hollowサイトでは明確な序列が確認されず, ナノ粒子化による吸着特性の変化が見られた. また, 合金化の効果について評価した結果, 合金ナノ粒子へのon-topサイト吸着について, 単元素系ナノ粒子よりも吸着エネルギーの値が幅広くなり, 吸着は弱くなる傾向が得られた. 本研究の手法によって, 従来困難であった合金ナノ粒子の吸着特性が解析可能となり, 今後, より多くの多元系ナノ粒子に関して, 種々の分子吸着特性に関する広範囲な探索が期待できる.
本研究の一部は, 科学研究費補助金特別推進研究(20H05623)の支援により行われた. ナノ粒子モデルのDFT計算は東北大学金属材料研究所のMASAMUNE-IMR上で実施した.