意思決定能力が低下(境界領域・グレーゾーン)し,「自律」が脆弱になった人々に対して,どのような姿勢で倫理的配慮をするのかという問いに対して,多くの場合,shared(supported)decision makingをすればよいという回答が返ってくるが,では,その場合の「自律」の概念をどう捉えるのかについては,十分な議論がなされていない。
いったい,家族や介護者に依存している認知症の人の「自律」とは,何を意味するのか?あるいは,自律の概念を広く認めることを許容すれば,法的にも倫理的にも不安定になり,“ゆらぎ” が生じる。それにもかかわらず,なぜ厳格な自律の概念を棚上げしてまでも,広い自律の概念を提唱しなければならないのか?
そこで,自律の概念について,「個別的な自律の概念」意思決定能力の構成要素を満たしひとりで自己決定できることから,「より広く,より豊かな自律の概念」へ。そして,さらには(1stステップ自己決定から,2ndステップ代理判断へ “飛び越える” のではなくて)自己決定と代理判断を一連のスペクトラムとしてとらえる「関係性的自律Relational Autonomy」「共感的自律Compassionate Autonomy」について言及し,自律の再概念化を論じる。