2022 年 10 巻 p. 5-15
倫理コンサルテーションにおいて倫理的な推論過程を定式化することは困難である。それゆえ個別事例の推論過程を広く共有することはその進展のために本質的な活動であり,本論考は当該活動に参与することを目的とし,東北大学病院倫理コンサルテーション・チームによって行われた15件のコンサルテーション(2017年7月から2019年6月)の依頼文書・回答書について記述・分析を行った。推論過程は主に原則アプローチに基づき行われており,患者の判断能力に限界がある,身寄りがない,患者・家族等・医療者の間に意見の不一致があるなど,原則の適用や比較衡量の困難な事例が多くを占めていた。判断能力のアセスメントや医療ケアの適切さという点で患者の意思とは異なる提案に至る事例もあった。本コンサルテーションでの推論過程は概ね先行研究の知見と合致するものであったが,適切な推論が行われているのか事例ごとに検証する機会は重要なものと考えられる。