1985 年 93 巻 1077 号 p. 217-224
ガンマ線を照射したガラス状及び多結晶メタリン酸塩中の不対電子がリン上に局在する放射線誘起常磁性中心をESRを用いて調べた。 31P核による70-120mTの分離をもつ一対の超微細構造の線形を解析した. ガラス中に生成した中心のESRパラメーターの平均値とそのゆらぎはガラス中の構造の分布を考慮した実測線形のシミュレーションによって決定した. 得られた結果は以下のようにまとめられる.
(1) 4配位のP4+中心が77Kで照射されたままのガラス及び多結晶中で観測された. この中心はPO42-グループ中のリンが一つの電子を捕獲することによって生成したものと考えられた.
(2) 77Kで照射されたガラスを昇温すると, 上記の中心は酸素を一つその配位球から放逐することによってC3vに近い対称性をもつ3配位中心に転化した. その結果, 生成した中心はSiO2中のいわゆる “E'-中心” に類似であり, 不対電子はほとんどリンのsp3混成軌道からなる非結合性準位を占有する.
(3) 4配位中心の生成及びその3配位中心への構造の熱的緩和は相似の電子配置を有するAs(V) と類似であり, これらの性質は5価のNWFの放射線誘起常磁性中心に固有の特徴であることが示唆された. これは5価のNWFは原子価がその配位数よりも大きいので電子捕獲のためのクーロン・ポテンシャルをもつことによると考えられた.