比較教育学研究
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論文
チェコ高等教育の多元化改革
―地域・人材を担う私立大学のインパクトを中心として―
石倉 瑞恵
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2015 年 2015 巻 51 号 p. 63-84

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抄録

 本稿では、チェコ高等教育の多元化改革を私立大学に焦点化して明らかにし、私立大学多様化が高等教育全体に及ぼしている影響力を分析した。

 2000年以降の量的拡大と学生の多様化は、高等教育の本質的多様化ではなく質的低下にすぎないとして、教育・青年・スポーツ省は、2006年に高等教育政策の優先領域を量から質へと転換させた。それぞれの大学が独自のエクセレンスを達成するよう推進し高等教育全体としての多様化を図る多元化改革には、質の問題を抱える大学の自己更新力を向上させるのみならず、伝統的研究大学のあり方を保護する意図がある。

 私立大学は、期限付き認可制及び「エクセレンス」政策、大学=修士・博士課程という伝統的認識の中で改革戦略を模索している。社会・経済の需要が高等教育に求めるものの実態が明らかになるにつれ、私立大学専攻は多極化し、地域へと分散する傾向にある。地域需要への感応性を高め、他大学との差異化を図り、専門性を高めることが私立大学の改革戦略である。

 私立大学の『戦略計画』、『年次報告』を基に私立大学を類型化すると、国際的環境を提供する大学、地域開発理論を提供する大学、学際的学びによる人材養成を担う大学、生涯学習・社会教育に特色を持つ大学、遠隔地への高等教育を提供する大学、地方公共団体・地方中小企業の人材養成を担う大学、人間に関わる専攻、メディア・芸術関係において実学的な教育を提供する大学となる。

 多様化した私立大学のチェコ高等教育における位置づけを明らかにするため、公立大学を国際志向/地域志向と研究志向/教育志向という軸に当てはめて類型化し、そのカテゴリーに基づいて私立大学を分類した。すると、「地域志向―教育志向」のカテゴリー、地域貢献、地域人材養成、地域開発という機能は、私立大学に大きく依存していることが明らかとなった。

 チェコ高等教育多元化改革は、すべての大学にプロフィールを公開するという圧力を加え、大学各自のあり方を検討する機会を提供した。この中で解決した問題は、質的な問題を抱えていた私立大学の自己更新力を高め、チェコ各地の社会需要に応じ人材養成を担う大学群を確保したこと、大学の自治・学問の自由というチェコ大学の理念を守る方策を得たことである。

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