脳神経外科ジャーナル
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遅発性の両側顔面神経麻痺をきたしたcrushing head injuryの1例
田中 俊英赤崎 安晴諸岡 暁結城 研司米本 友明阿部 俊昭
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2001 年 10 巻 6 号 p. 414-418

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抄録

症例は49歳, 男性で, 製紙工場にて作業中に圧縮ロールに両側頭部を左右方向から挟まれ, 両側鼻出血, 耳出血で主訴に救急搬送された.頭部CTにて気脳症, 蝶形骨洞内出血, 斜台骨折を認めたが錐体骨骨折は判明せず, 頭部MRIにて脳挫傷等の出血性病変は認められなかった.受傷12日目より両側顔面神経麻痺(House-Brackman grade IV)が明らかとなり, prednisoloneとMethycobalの投与を開始した.経過中にめまい, 耳鳴は出現しなかったが, アブミ骨筋反射の消失と唾液分泌の低下を認めた.聴力検査にて左伝音性難聴を認めた.受傷48日目の右顔面神経麻痺, 60日後に左顔面神経麻痺がそれぞれ改善した.本症例は両側より頭蓋骨にゆっくり加わる外力により頭蓋骨が変形する, low velocity crushing head injuryに起因する頭蓋底骨折に合併した両側外傷性顔面神経麻痺である.損傷部位としては, 涙腺分泌が保たれており唾液分泌, アブミ骨筋反射の消失, 閉眼不能を含む表情筋麻痺が認められたことにより, geniculate ganglionと鼓索神経の分岐部の間のfallopian canal内と考えられた.錐体骨骨折を伴わず, 斜台骨折のみによる遅発性顔面神経麻痺は, static loadingを原因とする頭蓋底骨折に伴う脳神経, 血管, 脳損傷を1つのclinical entityとする頭蓋底中部損傷の1つの病態として考慮し得ると思われた.

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© 2001 日本脳神経外科コングレス
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