2009 年 18 巻 1 号 p. 35-40
わが国ではリビング・ウイルやアドバンス・ディレクティブの制度が法的に確立していないため,回復見込みのない終末期に行う「無益な治療」の中断の判断や,患者自らの希望による生命維持装置中断の是非が,医師による殺人罪との関係でのみ議論されがちであり,実際の患者の自己決定権のあり方,家族らによる代理意思決定の可能性と限界について十分な議論が尽くされている状況にはない.「尊厳死の法制化」を望む声も聞かれるが,このようなわが国の情況下での制定には慎重を期する必要があり,法的解釈以前に考えなければならない国民性の問題も無視できない.ましてや「安楽死」の法制化は,日本では当面不可能であると言わざるをえない.ここには国民の気質,医療の体制,医療における患者の人権の再認識など,乗り越えなければならない問題が多い.今回は事例も参考にしながら,治療中断,尊厳死と安楽死の違いなどについて考えてみたい.