抄録
腰椎synovial cyst内への出血により急に左下肢痛が悪化した症例に対して, その発生機序について文献的考察を加え報告する.
症例は64歳男性. 急激な左下肢痛で発症され8週間経過をみたが痛みの改善がなく, 歩行に支障をきたすようになった.
MRIから左腰椎L4/5関節近傍に占拠性病変を認めた. 手術適応と判断され, 発症後10週目の手術待機で安静中に急激な左下肢痛の増強あり, 再度MRI精査を行い病巣内部の信号強度に変化がみられ出血による変化が疑われた. 病変の圧迫による左側L5神経根症状と診断し, 発症後11週目に病巣の摘出を行い, 症状は消失した. 病変は, 肉眼で病変内部の出血が明らかな嚢胞性病変であった. 病理検査では嚢胞内膜の一部は一層の滑膜細胞で覆われていたが, CD34やD2-40などの脈管性内皮マーカーに対して陰性であり脈管性病変は否定された. 以上の結果より出血を伴った腰椎synovial cystと診断した.
出血を伴うsynovial cystの特徴として, 急激な症状の悪化と, 発症時期により変化するMRI所見が特徴として挙げられる. 本症例は手術待機中に安静にしていたにもかかわらず出血をきたした原因として抗血小板薬の内服の関与が挙げられた. 出血を伴う腰椎synovial cystの予後は比較的良好であるが, 慢性期に手術された症例は症状が残存することがあり, 早期の迅速な手術が望ましい.