抄録
成熟した脳組織は, それまでに獲得した経験・知識を保護するためにきわめて排他的な性質を有しており, 新たな細胞やaxonの侵入を容易に許容しない. この内在性抑制機構は, グリオーマに対しても腫瘍形成・浸潤を抑制することが示されている. 放射線治療は, 特にオリゴデンドロサイト, 神経幹細胞, 血管内皮細胞などに強い影響を与え, これらの障害が複合的に関与した慢性退行性変化をもたらす. こういった正常脳組織の変化は, 認知機能低下として表出されると同時に, 腫瘍浸潤に対して許容的な微小環境を形成してしまう可能性がある. 放射線治療の適応決定に際しては, 脳の内在性抑制機構を十分に理解しておく必要がある.