2018 年 43 巻 2 号 p. 97-102
緒言:手根管症候群の手術後のpillar painは,職業復帰を妨げる要因となる.これを予防するために,環指浅指屈筋腱(flexor digitorum superficialis,以下FDS)を利用するとともに手根部に皮切が不要な術式を考案し,この手術を行った症例の術後5年の経過を観察した.
症例:農業に従事している60歳の女性が,右母指,示指,中指および環指のしびれと疼痛を主訴に受診した.重度の手根管症候群の診断の下に,環指FDSを手関節の皮切より近位へ引き抜くことで手根管を除圧し,引き抜いたFDSを利用して母指の対立を再建した.術後,合併症はなく,3カ月後に農業に復帰した.手術から5年後も農業を続けており,しびれ,疼痛は軽快していた.
考察:本術式は,pillar painが続発するおそれがなく,重度手根管症候群でありながら手作業などへの早期の復帰を希望する症例によい適応があると考えられた.
結語:重度手根管症候群の症例に対し,環指FDSを利用した母指対立再建と手根管除圧を同時に行い,良好な長期成績が得られた.