2019 年 17 巻 1 号 p. 1-10
提示時間が50 ms未満のマスク下のプライムを伴う語彙判断課題を使った多くの研究では,直接的に関連のあるプライム―ターゲット・ペアに対して有意な意味的プライミング効果の観察に失敗しているが,プライムが持つ形態隣接語とターゲットとの間の関連性によるプライミング効果は繰り返し報告されている.そこで,提示時間が50 ms未満のプライムを伴う語彙判断課題において観察されるプライミング効果を規定するのはどのような要因なのかを明らかにするために,類義語ペアを使って33 msのマスク下プライムを伴う語彙判断課題を行った.実験では,類義語ペアに対して,プライムとターゲットの意味数を操作したところ,少意味語プライム―多意味語ターゲット・ペアには有意なプライミング効果が観察されたが,多意味語プライム―少意味語ターゲット・ペアには観察されなかった.さらに,いずれの語ペアに対しても,反応時間のデータは,プライムの形態隣接語とターゲットとの間の意味的関連性の程度に依存していることが明らかとなった.これらの結果は,語の読みの初期段階には,提示された語ばかりでなく,その形態隣接語の意味も活性化されることを示唆するものであった.