神経科学により多くの心理現象(例:道徳,主体性)の神経相関が明らかにされてきている.この台頭は,心身二元論や魂の存在に関する考え方に挑戦していると言える.Preston et al. (2013)は,心を機械論的に説明する神経科学的情報に接触すると,身体と魂のどちらを保存するかを問うジレンマ課題において,魂を保存する選択が減少する一方,神経科学で説明し切れない点が強調されると魂を保存する選択が高まることを示した.本研究は,他国と異なり独特な宗教性や信仰心を持つ日本でも,同様のパターンが見られるか検討することを目的とした.実験の結果,心について「魂というよりも脳の働きの影響が強い」と考える人が神経科学的情報に触れた場合に,身体を保存する選択を強める可能性があることが示された.また,当初,心身二元論尺度は1因子の想定だったが,本研究では,魂への信念に関する因子と,心を脳機能と捉える因子の2因子構造を取ったため,日本人の心の捉え方が欧米とは異なっている可能性が考えられる.
本研究は,ネガティブな自己不連続性が日常生活でなつかしさを感じる傾向と相関し,状態なつかしさの喚起度を高めることを示したSedikides et al. (2015)の概念的追試を行うことを目的とした.研究1では,生活の変化がポジティブ,ネガティブであるか回答し,その変化に由来する自己不連続性を評定するよう手続きを修正した.その結果,ネガティブな変化の多さとなつかしさ傾向の相関は非有意であり(.07),自己不連続性となつかしさ傾向は有意な相関を示した(.20).年齢を統制すると後者の相関はわずかに低下し非有意になった(.18).探索的分析により,なつかしさ傾向はポジティブな変化ではなくネガティブな変化に由来する自己不連続性とのみ正に相関することが示された.研究2Aでは先行研究と同じ材料を用いて,研究2Bでは新たな材料を用いて自己不連続性の実験操作を行ったところ,自己不連続性は状態なつかしさの喚起度に影響を与えなかった.これらの結果から,ネガティブな自己不連続性はなつかしさ傾向と関連するが,状態なつかしさの喚起度を高めないことが示された.