認知心理学研究
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原著
  • 中島 優, 蘆田 宏
    2026 年23 巻2 号 p. 93-108
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/03
    [早期公開] 公開日: 2025/12/16
    ジャーナル フリー

    視覚課題と聴覚課題に注意を分割すると,個別に注意を向けた場合に比べて,視覚処理が遅延する一方で,聴覚処理は遅延しないことが報告されている(聴覚優位).しかし,聴覚優位に関する研究は限られており,不明な点も残る.一つ目に,注意分割時に聴覚処理が速くなる促進現象がどのくらい一般的にみられるかは確認されていない.二つ目に,聴覚優位は聴覚処理が遅い個人でより強いと報告されているが,その解釈には議論の余地がある.本研究では,視聴覚刺激への分割注意において,聴覚反応の促進が再現されるかを追試し,個人の聴覚処理速度が視聴覚の反応遅延とどのように関わるかを検討した.識別課題とオドボール課題を用いた実験の結果,聴覚反応の促進は再現されず,この現象は実験操作外の要因に依存する可能性が示された.また,聴覚処理が遅い参加者では,聴覚遅延が小さくなる傾向が観察されたが,視覚遅延への影響は観察されなかった.聴覚処理が遅い個人では,分割注意中に注意が聴覚に偏ることで,聴覚反応が遅延しにくくなる可能性がある.

  • 鈴木 悠介, 藤村 優里, 永井 聖剛
    2026 年23 巻2 号 p. 109-120
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/03
    [早期公開] 公開日: 2025/12/16
    ジャーナル フリー
    電子付録

    本研究は,不安状況下におけるポジティブな変換音声フィードバックの効果を検討した.従来研究では,不安時の内的状態のフィードバックが明示的に与えられ,フィードバックのネガティブな解釈が不安感情を増幅させる可能性が示唆されていた.しかし,本人が意識しない暗示的なフィードバックの効果は十分に検討されていなかった.そこで本研究では,他者に評価される不安状況下で文章読み上げ課題を課し,その発話音声に対し,ポジティブ感情に関連する音響特徴を付与した変換音声フィードバックをリアルタイムで施した.実験の結果,不安を喚起した読み上げ課題時に,ポジティブ音声フィードバックを受けた実験群では,フィードバック操作のない統制群と比較して,皮膚コンダクタンスレベルの上昇が有意に抑制されることが示された.本研究は,暗示的なフィードバックであっても不安状態に影響し,ポジティブ音声フィードバックが不安上昇を抑制する可能性を示唆した.本知見は,不安をリアルタイムで低減させる臨床応用への新たな手がかりとなることが期待される.

  • 鄧 佳欣, 大杉 尚之
    2026 年23 巻2 号 p. 121-132
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/03
    [早期公開] 公開日: 2025/12/18
    ジャーナル フリー

    過去に接触した対象への好意度が高まる傾向は「親近性選好」,新しい対象を好む傾向は「新奇性選好」と呼ばれる.風景刺激を用いた先行研究では,親近性選好が生じたとする報告と,新奇性選好が生じたとする報告が混在している.その要因の一つとして,好意度評価課題の違い(相対評価課題/絶対評価課題)および提示パラダイムの違い(評価時提示パラダイム,単純接触パラダイム)が影響している可能性がある.本研究では,風景刺激を用い,好意度評価課題の違いと提示パラダイムの違いを組み合わせた4つの実験を実施した.その結果,評価時提示パラダイムを用いた相対評価課題(実験1)および同パラダイムを用いた絶対評価課題(実験3)では新奇性選好が,単純接触パラダイムを用いた相対評価課題(実験4)では親近性選好が生じた.一方,単純接触パラダイムを用いた絶対評価課題(実験2)ではいずれの選好も確認されなかった.これらの結果から,提示パラダイムの違いに基づき,親近性選好と新奇性選好の方向性を整理することが可能であり,各パラダイムに内包する要因のいずれかが両者の分離を規定する可能性が示唆された.

  • 山内 裕斗, 竹田 友希, 山本 愛華, 浅井 菜那, 安藤 美華代
    2026 年23 巻2 号 p. 133-143
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/03
    [早期公開] 公開日: 2026/02/04
    ジャーナル フリー

    本研究では,他者から評価を受けるスピーチ場面として,対面で他者の前でスピーチを行う対面条件と,他者がいない状態でビデオカメラに向けてスピーチを録画した後に評価を受けるビデオ録画条件という2つの条件のもと,スピーチ前後での感情状態と心拍の変化,スピーチの自己評価と他者評価の差異について検討することを目的とした.16名の学生を対象に,スピーチ課題に取り組む実験を行った.分散分析の結果,心拍はスピーチ前やスピーチ後よりもスピーチの最中が最も高かった.スピーチの自己評価は他者からの評価よりも低かった.また,これらの結果は共変量にスピーチ不安と評価懸念を投入した共分散分析では効果が消失し,スピーチ不安と評価懸念の効果が示唆された.本研究での知見より,介入研究への応用や,自身に適したスピーチ方法の工夫など,今後の発展が期待される.

  • 入野 晴菜, 国里 愛彦, 竹林 唯, 小川 祐子, 菊地 裕絵, 鈴木 伸一
    2026 年23 巻2 号 p. 145-159
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/03
    [早期公開] 公開日: 2026/02/04
    ジャーナル フリー

    本研究は,拒絶過敏性(RS)が排斥場面における排斥予期・排斥知覚・気分反応という一連のプロセスに及ぼす影響を実験的に検討した.大学生37名が参加し,RSを自記式尺度で測定後,受容・排斥・再受容ブロックからなるサイバーボール課題を実施した.各ブロック前後に排斥予期・排斥知覚・気分(PANAS)を測定し,排斥操作が有効であった31名を分析対象とした.線形混合モデルの結果,排斥予期は排斥知覚を予測しなかったが(β=−0.07, p=.61),排斥知覚はネガティブ気分(β=0.38, p<.001)および次の排斥予期(β=0.74, p<.001)を予測した.また,RSは排斥知覚(β=0.16, p<.05)とネガティブ気分(β=0.61, p<.001)に対して主効果を示し,ネガティブ気分と次の排斥予期の関連を強める交互作用効果(β=0.18, p<.05)を示した.以上から,RSは排斥予期そのものを直接的に高めるのではなく,排斥知覚やネガティブ気分といった主観的な拒絶体験を通して次の状況における排斥予期を間接的に高める可能性が示唆された.

  • Shin Yurie, 川島 朋也, 木村 司, 篠原 一光
    2026 年23 巻2 号 p. 161-172
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/03
    [早期公開] 公開日: 2026/02/04
    ジャーナル フリー

    文脈手がかり効果は,標的刺激と妨害刺激の関係を繰り返し学習することで視覚探索を促進する.本研究では,標的刺激および妨害刺激の位置・形状の組み合わせが探索の手がかりとしてどの程度有効か,また探索プロセスにどう影響するかを検討した.実験1では,標的刺激と妨害刺激の位置・形状がすべて反復される条件で最も探索が促進された.部分的な組み合わせでは,標的刺激と妨害刺激の形状の組み合わせが最も効果的で,位置の組み合わせの効果は限定的だった.実験2では,学習後に標的刺激を位置から形状へ切り替え,探索促進の維持と文脈の再構成可能性を検討した.その結果,学習段階では妨害刺激の位置が有効な手がかりとなったが,形状の手がかり効果は限定的で,切り替え後に探索促進は維持されず,文脈の再構成も確認されなかった.また,妨害刺激の形状の手がかり効果が完全に失われたわけではなく,一部機能していた可能性も示唆された.本研究は,文脈手がかり効果が異なるメカニズムに基づくことを示し,視覚探索の適応的戦略理解を深めるものである.

講演論文
  • 齋木 潤, 川畑 秀明, 松本 直子, 山本 真也, 石井 敬子
    2026 年23 巻2 号 p. 173-179
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/03
    ジャーナル フリー

    2024年度から学術変革領域研究A「マテリアマインド:物心共創人類史学の構築」が開始された.このプロジェクトは,ヒトによる環境構築と,ヒトの認知・身体・行動の変化との絡み合いについて,文理の枠を超えた超領域的共同研究によってそのメカニズムを明らかにし,人類の来し方行く末を統合的に理解する新モデルの提示を目指している.本プロジェクトにおける超領域的共同研究は人文学に理系の技術や手法を持ち込み「科学化」する月並みなものではなく,理系分野に人文学的概念や論理を持ち込むことで,学知の構造の根本的変革を企図している.心理学はこの試みの中で文理を繋ぐ扇の要として重要な役割を果しうる.本論文では,「マテリアマインド」の構想を紹介するとともに,プロジェクトに参画する心理学者(霊長類学,社会心理学,認知心理学,認知神経科学)の取り組みを紹介して,物心共創人類史学の中で心理学が果たすべき役割を考察する.

  • 月浦 崇, 杉浦 元亮, 北田 亮, 梅田 聡
    2026 年23 巻2 号 p. 181-189
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/03
    ジャーナル フリー

    ヒトは,過去から現在まで一貫した自己を有しており,周囲の大きな変化によっても自己を失うことなく日々の生活を送ることができる.その一方で,就職や結婚などのさまざまなライフステージの変化では,環境に応じて自己を変容させることで,新たな環境においても適応的に自己を位置づけることができる.本稿では,このような適応的な自己の基盤となる神経メカニズムについて,社会的認知,知覚・運動,記憶,感情の多様な側面の脳研究からのアプローチを紹介し,適応的な自己の多面性の基盤となる脳メカニズムについて議論する.

  • 齊藤 智, 井関 龍太, 西山 慧, 大平 英樹, 小塩 真司, 佐伯 恵里奈, 熊田 孝恒
    2026 年23 巻2 号 p. 191-199
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/03
    ジャーナル フリー

    本シンポジウムでは,認知心理学の構成概念が抱える問題について多角的に議論した.話題提供では,西山が心理学用語の意味が時代と共に変化することを実証し,齊藤はワーキングメモリを固定的な実体とみなす「本質主義」からの脱却をとなえた.大平は感情を身体と予測の相互作用と捉える視点を提示し,小塩はパーソナリティ概念の「良し悪し」が予測される結果に依存する点とともに,状況や文脈を考慮することの重要性を指摘した.話題提供の後,佐伯は概念が「説明されるもの」か「説明するもの」かという二面性について論じ,熊田が実体なき概念同士の循環的定義(ブートストラップ)という理論的限界等について論じた.最終的に,構成概念の限界や可変性を自覚しながら研究を続けることの重要性が確認された.

  • 吉岡 俊彦, 熊田 孝恒
    2026 年23 巻2 号 p. 201-207
    発行日: 2026/02/28
    公開日: 2026/03/03
    ジャーナル フリー
優秀発表賞
優秀論文賞
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