2012 年 65 巻 8 号 p. 442-446
症例は73歳女性.肛門部の皮疹を主訴に受診.肛門周囲に全周性に肛門縁から約1cmにわたる比較的境界明瞭な紅色皮疹を認め,生検にて直腸癌のパジェット様進展が疑われた.しかしながら,肛門管および直腸に腫瘤性病変を認めなかった.術前マッピング検査を行い,会陰部の切除範囲を決定し,腹会陰式直腸切断術,D2郭清を施行した.病理組織学検査で初めて,肛門腺部にごく小範囲のSM癌が発見され,原発巣と考えられた.補助化学療法は施行せず,術後2年5ヵ月,無再発生存中である.
本症例は,病変の主座は肛門管粘膜下に存在し術前の原発巣同定が困難であった.しかし初期像としてパジェット様進展が認められたため,肛門腺癌が非常に微小の状態で切除された.肛門部のパジェット様病変においては,肛門管粘膜下の肛門腺に癌腫が隠れている可能性を常に念頭において診察すべきである.