下部進行直腸癌に対する術前化学放射線治療(CRT)は欧米では標準治療と考えられているが,家族性大腸腺腫症に伴う下部進行直腸癌症例におけるCRTの報告はほとんどなく,その有用性は明らかではない.今回経験した3症例の治療経過について報告する.症例は50-60代の男性2例,女性1例で,臨床病期はすべてT3N0M0,StageIIであった.全例で術前化学放射線治療後に大腸全摘術を施行し,1例では回腸嚢肛門吻合術を,他2例では永久的回腸人工肛門造設術を施行した.全例で予防的側方郭清は施行せず,病理組織学的所見における治療効果はそれぞれGrade 1a,Grade 2,Grade 3であった.全例で6年以上経過観察し,再発は認めていない.