日本大腸肛門病学会雑誌
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77 巻, 1 号
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原著
  • 花岡 まりえ, 高岡 亜弓, 佐々木 恵, 山内 慎一, 絹笠 祐介
    2024 年 77 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル フリー

    目的:他臓器浸潤を伴う原発性直腸癌に対するロボット支援手術の短期成績について報告する.

    方法:2017~2023年に当科でロボット支援手術を施行した原発性直腸癌のうち,他臓器合併切除を施行した34例を対象とし短期成績につき後方視的に解析した.

    成績:年齢68歳,男:女26:8例,RS/Ra/Rb/P 7/5/20/2例,cStageII/III/IV 7/25/2例,直腸切断術16例,低位前方切除術8例,骨盤内臓全摘術(PE)が5例に施行された.手術時間はPE以外/PEで各334/617(分),出血量は各40/367(mL),術後在院日数は各7/14(日).Clavien-Dindo GradeII以上の合併症は全体で6例(17%).剥離面陽性はPE以外2例(7%),PEは全例陰性であった.

    結論:当科における他臓器浸潤直腸癌に対するロボット支援手術の短期成績は良好であった.

  • 鈴木 優之, 指山 浩志, 鈴木 綾, 高野 竜太朗, 坪本 敦子, 中山 洋, 安田 卓, 小池 淳一, 堤 修, 浜畑 幸弘
    2024 年 77 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 2024年
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル フリー

    目的

    痔瘻癌早期診断のための特徴的臨床所見の検討.

    方法

    早期診断の観点から,痔瘻癌13例の臨床的特徴と隅越らが定義した臨床的診断5項目を比較した.

    結果

    疼痛硬結,他部位原発癌の不在,瘻管開口部の局在は全例で認めたが,ムチン様分泌は8例,10年以上の痔瘻病悩期間は5例にとどまった.ドレナージで軽快しない疼痛,弾性のない著しい硬結が,膿瘍との相違点であった.隅越らの5項目すべてを満たす症例は13例中3例のみであった.MRIは86%で高輝度不均一な多房性嚢胞性病変,経肛門超音波検査(EAUS)は83%で隔壁を伴う大小格子状構造や等エコー充実性成分を認め,いずれも診断に有用であった.

    結論

    早期診断に有用な所見として①広範囲の著しい硬結②ドレナージで軽快しない疼痛③ムチン様分泌④特徴的MRI/EAUS所見の4項目が挙げられた.1項目でも合致する場合,痔瘻癌を強く疑い積極的な生検を施行すべきと考える.

臨床研究
  • 宮崎 道彦, 山田 真美, 田中 玲子
    2024 年 77 巻 1 号 p. 22-29
    発行日: 2024年
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル フリー

    〈対象〉排便造影検査を行った525例(女性297例),中央値68(17-93)歳を対象とし検討した.検討した形態異常所見は直腸瘤,wide rectum,直腸重積,S状結腸瘤,恥骨直腸筋奇異性収縮,恥骨直腸筋弛緩不全,stuck pelvic floor,肛門管開放不良,会陰下垂,鋸歯状直腸である.〈結果〉女性には直腸瘤(p<0.0001),wide rectum(p=0.0309),会陰下垂(p<0.0001)が,男性には恥骨直腸筋弛緩不全(p<0.0001),stuck pelvic floor(p<0.0001)が多く認められた.また器質性便排出障害と機能性便排出障害に分けて検討すると器質性は女性に(p<0.0001),機能性は男性に(p<0.0001)多く認め,両合併は女性に(p=0.0006)多く認めた.〈結語〉便排出障害の診断で男性は内圧検査などの追加検査が必要であると推測された.

症例報告
  • 後藤 圭佑, 柳 舜仁, 北川 隆洋
    2024 年 77 巻 1 号 p. 30-36
    発行日: 2024年
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル フリー

    症例は60歳台の女性.2年前に閉塞性直腸癌の診断にて,腹腔鏡下低位前方切除術を施行した.20年前に子宮体癌の手術歴があり,遺伝子検査を施行し,Lynch症候群の診断が確定した.術後サーベイランスの経過中に慢性貧血を認め,上下部消化管内視鏡検査とCT検査を行うも,貧血の原因となる粗大病変は認めなかった.Lynch症候群の存在があったため,小腸腫瘍を積極的に疑い経口ダブルバルーン小腸内視鏡検査を行った.空腸にType2病変を認め,生検にて,中分化管状腺癌を確認した.原発性小腸癌の診断にて,腹腔鏡補助下小腸部分切除を施行し,術後経過良好で第11病日に退院となった.小腸癌は術前診断に至ることが難しい疾患であるが,本症例ではLynch症候群が背景にあることから積極的に小腸癌を疑い,経口ダブルバルーン小腸内視鏡を用いることで,術前確定診断を得ることができた.

  • 小林 照忠, 佐藤 龍一郎, 金子 直征, 佐藤 純, 舟山 裕士
    2024 年 77 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2024年
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル フリー

    症例は46歳男性.膀胱浸潤S状結腸癌に対して横行結腸ストーマ造設後に化学療法を行い,終了後にS状結腸切除,膀胱部分切除術を行った.病理組織診断はyT4b(膀胱)N0M0,StageIIc,組織学的効果判定はGrade 1で,術後化学療法を行ったが,膀胱内再発して経尿道的腫瘍切除術を施行し,その後ストーマを閉鎖した.さらに左内腸骨リンパ節転移が顕在化して重粒子線治療を受けた.治療終了後にリンパ節転移は消失したものの右外腸骨リンパ節転移が顕在化し,再度重粒子線治療を受けて消失した.重粒子線治療終了後4年半経過し,この間再発は認めていない.本症例は,膀胱へ浸潤したS状結腸癌が,膀胱の領域リンパ節である側方リンパ節へ転移したものと推測され,リンパ行性転移を考える上で貴重な症例であった.また,再発病巣に対する経尿道的治療,重粒子線治療は,QOLを損なうことなく根治的治療が可能で,有用であった.

  • 知久 毅, 篠田 公生
    2024 年 77 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2024年
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル フリー

    われわれは,通過障害を伴った局所進行大腸癌に対して,自己拡張型金属ステント(self-expandable metallic stent:SEMS)挿入後に化学療法を施行したところ,化学療法が著効し良好な結果が得られた症例を経験したので報告する.症例は61歳,男性.S状結腸癌イレウスに対して,大腸ステントを挿入した.次いで,S-1とオキサリプラチンの併用療法(SOX療法)4コース施行後,腹腔鏡補助下S状結腸切除術を施行した.ステント挿入中の大腸癌症例に対する化学療法の実施については,最新のガイドラインでは,行わないことが弱く推奨されている.したがって,ステント挿入下の化学療法により腫瘍の縮小を図った後に切除を目指す方法は,十分なインフォームドコンセントを得た上での治療の選択肢となりうると考えるが,さらなる症例の蓄積が必要である.

  • 野村 和徳, 中島 隆善, 松木 豪志, 仲本 嘉彦, 一瀬 規子, 岡本 亮, 栁 秀憲
    2024 年 77 巻 1 号 p. 50-55
    発行日: 2024年
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル フリー

    患者は44歳の男性で,左上腹部痛および発熱を主訴に当院を紹介受診した.血液検査で炎症反応の上昇を認め,CTで小腸が右腹腔内に,結腸が左腹腔内に存在し,腸回転異常が疑われた.上行結腸と思しき結腸に壁肥厚および周囲脂肪織濃度の上昇を認め,憩室炎の診断で緊急入院となった.絶食および抗生剤投与による保存治療を行ったが奏効せず,外科転科のうえ手術を行った.手術は腹腔鏡下結腸右半切除術を施行,術中所見でTreitz靭帯の形成は認められず,盲腸から上行結腸は腹壁に固定されていなかった.上行結腸とその間膜に強い炎症性変化を認め,同部位を含めて切除した.摘出標本において,上行結腸に憩室炎および結腸間膜内に連続する膿瘍形成を認め,結腸憩室間膜内穿通と診断した.成人腸回転異常症に合併した結腸憩室間膜内穿通は極めてまれな病態であり,臨床解剖学的に示唆に富む症例と考えられたため文献的考察を加えて報告する.

  • 高山 裕司, 宮倉 安幸, 水澤 由樹, 田巻 佐和子, 初沢 悠人, 福井 太郎, 柿澤 奈緒, 力山 敏樹
    2024 年 77 巻 1 号 p. 56-61
    発行日: 2024年
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル フリー

    下部進行直腸癌に対する術前化学放射線治療(CRT)は欧米では標準治療と考えられているが,家族性大腸腺腫症に伴う下部進行直腸癌症例におけるCRTの報告はほとんどなく,その有用性は明らかではない.今回経験した3症例の治療経過について報告する.症例は50-60代の男性2例,女性1例で,臨床病期はすべてT3N0M0,StageIIであった.全例で術前化学放射線治療後に大腸全摘術を施行し,1例では回腸嚢肛門吻合術を,他2例では永久的回腸人工肛門造設術を施行した.全例で予防的側方郭清は施行せず,病理組織学的所見における治療効果はそれぞれGrade 1a,Grade 2,Grade 3であった.全例で6年以上経過観察し,再発は認めていない.

編集後記
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