1980 年 33 巻 5 号 p. 483-487,519
仙尾骨部に発生した巨大な脊索腫の1例を腹仙骨術式にて切除したうえでの報告する.
症例は59歳の男性.痔瘻の手術をうけたのち尾骨部に腫瘤が出現し,切開したところ大量のゼリー状物質が排出した.諸検査の結果,直腸後方より側方・前方に至り小骨盤腔を占める腫瘍を認めた.
手術は下腹部正中切開にて開腹し,両側内腸骨動脈を根部にて結紮したのち腫瘍を可及的に剰離した.患者をjack-knife体位に変え腫瘍とS3以下の仙尾骨を一塊として切除した.
摘出した腫瘍は大きさ20×7cmで,弾性があり,薄い結合織で被われ,内容物として大量のゼラチン様物質が含まれていた.組織学的には,腫瘍の実質は特有な胞巣構造を形成せず,signet-ring cell細胞が散在し,問質は明るく抜けた粘液物質により占められていた.
臨床的・組織学的所見より仙尾骨部脊索腫と診断し,術後1年10ケ月の現在,再発の徴候もなく経過順調である.