1988 年 41 巻 7 号 p. 965-970
症例は53歳,男性.38歳時,血便を主訴に来院.兄が直腸癌,大腸ポリポージスを指摘されており,注腸X線造影を施行したところ,非密生型の大腸ポリポージスが認められ,大腸腺腫症と診断した.患者は豆腐製造販売業を営み,術後頻回の排便は,職業上,衛生的観点より非常に不都合であるため,計3回の手術と計34個の内視鏡的ポリペクトミーを行って,可能なかぎり直腸肛門機能を温存した.術後15年経過した現在も,排便機能は良好で,健康で仕事に従事している.残存大腸に対しては厳重な経過観察を行っており,現在ポリープは認められていない.大腸腺腫症の治療には種々の問題があり,画一的治療を行うことは困難である,個々の症例において,癌種の進行度,発生部位,および社会的背景因子を十分考慮し,術式を選択すべきであると考えられた.