日本大腸肛門病学会雑誌
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大腸憩室疾患の疫学と臨床
井上 幹夫
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1991 年 44 巻 5 号 p. 579-579,773

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抄録

我が国における大腸憩室疾患(DD)は1970年頃より急速に増加し、これに伴って臨床の場でも憩室炎などの合併症に遭遇する機会が増加した。ここでは弘前大学第一内科、新潟市民病院、東京都立駒込病院・府中病院、兵庫医大第四内科、福岡大学健康管理科の5施設で、1975年より行って来た共同研究の結果を中心に我が国のDDの疫学と臨床を述べる。
DDの発見頻度は東京、福岡、兵庫、新潟、弘前の順で、1975年の時点では、東京の頻度は弘前の約8倍であった。5施設とも年次的増加傾向が著明で、平均発見頻度は1975年の4.8%から、1986年では14.6%と約3倍増加した。現在の我が国の頻度は欧米の1/2ないし1/3である。
欧米ではDDの95%は左側大腸に発生するが、我が国では右側大腸が優位で、DD症例全体では右側型が73%を占め、両側型、左側型がそれぞれ13%、14%であった。年令的にみると若年者では大部分が右側型で、右側型は40才代までは急速に増加し、一方、40才以降では左側憩室の発生が増加し、70才以上では右側型、両側型、左側型がそれぞれ45%,30%、35%であった。
大腸憩室の部位別分布は年次的にも変化がなく、また我々の症例と我が国に比べ3倍も頻度が高いハワイ在住の日本人との間にも差がないことから、DDの好発部位は遺伝的に規制されるもので、憩室の発生要因は右側大腸と左側大腸に同様に作用すると解された。
我が国のDDは欧米に比べて個数が少ないものが多く、全体では単発32%、2-9個47%、10個以上21%であった。左側では加令による憩室個数の増加傾向がみられたが、右側ではこの傾向はなかった。
DD発生の外的要因としては欧米では食物繊維摂取量の減少が注目されており、我が国でもこれを支持する報告がある。発生病理学的には右側大腸憩室症例では右側大腸の内圧亢進が観察されている。
DDの臨床では合併症(憩室炎、穿孔、出血)の有無に応じた取り扱いが必要である。合併症がない場合でも腹痛などの腹部症状や便通異常を訴えることが少なくないが、大部分の症例ではこれらが憩室に起因しているという根拠は乏しい。
欧米では憩室炎が10~20%、憩室出血が10~30%に起こるとされている。我が国では憩室炎、憩室出血の頻度はそれぞれ2~4%、1~2%とされ、いつれも憩室個数の多いものに起こり易い。右側憩室炎は憩室の頻度が未だあまり高くない20~30才代でもよくみられ、一般には軽症で保存的に治療可能であるが、虫垂炎との鑑別が困難なことが多い。一方、左側憩室炎は40才以上に多く、穿孔、膿瘍・瘻孔形成、狭窄を起こす危険があり外科的手術を要することが少なくない。憩室出血は年令の多いもの、両側型・左側型に起こり易い。重症なものは少なく保存的治療が可能なものが多い。

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