1994 年 47 巻 10 号 p. 1091-1098
近年,quality of life(QOL)が議論されるようになり,手術術式の評価には再発率だけでなく術後機能の回復率および改善率も重要視されるようになった.直腸肛門機能障害をきたす疾患において,anorectal manometryの臨床応用は,原因となる因子の検索,診断,治療法の選択および治療後の評価に有用であり,QOLの向上に役立つものである.本稿では正常肛門機能のanorectal manometryを示し,下部直腸癌および潰瘍性大腸炎に対する肛門括約筋温存術における術前・術後肛門機能の評価,外傷性肛門損傷,直腸脱そして排便困難症の診断についてanorectal manometryにより検討した.その結果,内外肛門括約筋の機能および貯留能の評価は,術前の病態を診断し,治療法の選択と治療効果の判定に有効であり,術後肛門機能の経時的な回復を客観的に示した.同時に,他の生理学的ならびに解剖学的検査との組み合わせによる総合的判断の必要性が改めて認識された.