材料と環境
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総合論文
Characterization of Patinas that Formed on Copper Exposed in Different Environments for One Month
Masamitsu WatanabeTakao HandaToshihiro IchinoNobuo KuwakiJun’ichi Sakai
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2009 年 58 巻 4 号 p. 143-157

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抄録
大気中における銅の初期段階の腐食挙動を都市部,田園/海岸地域,温泉地域,郊外地域及び火山地域において銅板を 1カ月暴露することにより調べた.暴露実験は夏季あるいは秋季に開始した.1カ月間の暴露により生成した銅腐食生成物をX線回折,蛍光X線分析法,X線光電子分光法(XPS),走査型電子顕微鏡及びグロー放電発光分光法(GDOES)により評価した.温泉地域に暴露した銅板を除くすべての銅板のX線回折パターンは亜酸化銅及びポスンジャカイトの生成を示していた.郊外地域のようなマイルドな環境でもポスンジャカイトが生成することを見いだした.温泉地域に暴露した銅板の場合,カソード還元曲線には硫化銅の還元に由来するプラトーが観測されたが,X線回折パターンは亜酸化銅のみの生成を示していた.都市部,田園/海岸地域及び火山地域に暴露した銅板表面の硫黄 2p 領域の XPS スペクトルは主として硫酸イオン由来のピークを示したが,温泉地域に暴露した銅板では硫化物イオン及び硫酸イオン由来のピークを示した.前者はポスンジャカイトの生成を,後者は暴露中の硫化物の酸化を反映しているものと考えられる.一方,塩素2p領域のXPSスペクトルはどの暴露地域においても塩化物イオンとして存在することを示唆していた.走査型電子顕微鏡による表面形態観察の結果,暴露地域ごとに表面形態が異なることが明らかとなった.GDOESによる元素の深さ方向分析により銅の大気腐食の初期段階において腐食生成物中における硫黄と塩素の分布形態は異なることを明らかにした.硫黄は腐食生成物の外層側に局在し,塩素は腐食生成物内部に侵入していた.硫黄の影響を酸化性硫黄と還元性硫黄に分類して考察した.酸化性硫黄は表面の吸着水層のpHを低下させ,亜酸化銅の溶解を促進する.また,酸化性硫黄は銅との反応によりポスンジャカイトを形成し,その生成の結果,表面は粗くなる.還元性硫黄も酸化性硫黄と同様に表面の吸着水層のpHを低下させ,硫化銅を形成する.塩素は亜酸化銅を溶解して塩化銅錯体を形成する.その結果,腐食生成物内部に侵入するため,塩素の深さ方向分布が変化する.
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© 2009 Japan Society of Corrosion Engineering
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