抄録
1 N-H2SO4中における純Fe,純CrおよびFe-Cr合金の腐食反応の見かけの活性エネルギー(ΔQa)を化学的に寄与する項と電気的に寄与する項に分離し,化学的活性化エネルギーの組成依存性について考察を行った.
Fe-Cr合金の腐食反応はアノード反応である金属溶解反応が支配的であり,カソード反応であるH+のH2への還元反応はCr濃度にあまり依存しないことを示し,金属の溶解反応に着目して,その化学的活性化エネルギーとCr濃度の関係について検討した.Fe-Cr合金の自然電位がCr濃度の増加とともに,直線的に低下する挙動を参照して,純Feと純Crの標準電極電位の貴・卑関係から,Fe-Cr合金の標準電極電位は,Cr濃度の増加に伴い,直線的に減少すると仮定し,ΔQaと電気的に寄与する項との差分から化学的な活性化エネルギー(Q0)を推定した.その結果,Q0は40%Cr以下ではCr濃度の増加とともに直線的に減少するが,40%Cr以上では逆に増加することを示した.
また,得られたQ0に対して,熱力学的な部分モル量の加成性の概念を適用し,Fe-Cr合金中のFeとCr各々単独の化学的活性化エネルギー(部分モル活性化エネルギー)を算出した結果,純金属中に比べ,Fe-Cr合金中ではCrのQ0が著しく低下することを示した.これより,Fe-Cr合金の腐食速度がCr濃度の増加とともに増大するのは,純CrにおけるQ0に比べ,合金中におけるCrのQ0の方が大きく低下するためと考えられた.