抄録
クロメート代替原料の一つであるマンニッヒ変性フェノール樹脂の電気亜鉛めっき鋼板上に形成された皮膜について,処理皮膜の断面分析および電気化学測定を行い腐食抑制効果のメカニズムを明らかにした.耐食性の優れる200ºC焼付け処理皮膜は,電気化学インピーダンス測定において,80ºC焼付け処理皮膜に比べて高い電荷移動抵抗(Rct)と高い皮膜抵抗(Rf)を示す.これらの抵抗の増加は,架橋反応によって皮膜の吸水性が低下したことによるものである.すなわち,皮膜抵抗の増大は皮膜のイオン伝導度の低下によるもので,電荷移動抵抗の増大は皮膜と基板界面の溶存酸素を含む水の供給抑制によるものである.処理液中に添加したリン酸は,皮膜/素材界面に不溶性のリン酸亜鉛皮膜層を形成する.リン酸亜鉛皮膜層は,素材との化学的相互作用によって素材の複雑な表面形状に追従して密着しており,溶存酸素を含む水の素材との接触を遮る効果を高める.このためリン酸添加皮膜は高い耐食性を示したと考えられる.一方,皮膜/素材間に化学的相互作用のないリン酸無添加の80ºC焼付け処理皮膜は,皮膜/素材界面に空隙(欠陥)を形成し耐食性が劣った.