抄録
耐候性鋼の大気腐食をシミュレーションするため,Cr(III),Cu(II)およびNi(II)を含むFeSO4水溶液の空気酸化により人工鉄さびSchwertmannite (Fe8O8(OH)6SO4)を合成し,これらのα-FeOOHへの転移挙動を種々のpHで調査した.Cr(III),Cu(II),Ni(II)添加はSchwertmanniteの結晶化にほとんど影響しなかった.金属イオン非添加で調製したSchwertmannite粒子は長軸長265 nmの針状粒子であった.Cr(III)はSchwertmannite結晶中のFe(III)とおそらく置換することで取り込まれ,さらに粒子サイズが低下した.溶液中のCu(II),Ni(II)はFe(III)よりも粒子中に取り込まれにくいが,Cu(II)はSchwertmanniteの粒子成長をわずかに抑制した.Schwertmannite粒子はpH3-11でα-FeOOHに転移した.Schwertmanniteへの金属イオン添加はα-FeOOHへの転移を抑制し,とくに,Cr(III)はいずれのpHでもα-FeOOHへの転移を強く阻害した.これらの結果から,耐候性鋼の合金金属はSchwertmanniteからのα-FeOOHさび粒子の生成に強く影響し,その効果はCr(III)>>Cu(II)>Ni(II)になることが示唆された.