作物研究
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論文
野生イネOryza rufipogon由来の穂の開帳性を支配する遺伝子領域の推定
西岡 諒三日月 裕美Htun Than Myint石川 亮石井 尊生
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ジャーナル オープンアクセス

2016 年 61 巻 p. 23-26

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抄録

栽培イネ(Oryza sativa L.)はアジアの野生イネO. rufipogon に由来する.イネの栽培化初期において,つまり種子が非脱粒性である植物の出現以前において,穂の形態は鍵となった形質であると考えられている.なぜなら,栽培イネのように穂が閉じた形態をしている野生イネは,種子の脱落を一時的に抑制することが観察されているからである.以前我々は,この穂の形態を支配する主要な遺伝子座は第4染色体に座乗しているSPR3であり,OsLG1遺伝子の発現制御に関係していることを明らかにした.しかし我々は同時に,研究材料であったO. sativa NipponbareとO. rufipogon W630間のBC2F8世代の戻し交雑自殖系統のいくつかに,SPR3遺伝子座に野生イネの対立遺伝子を持たないにもかかわらず,穂が開帳性であるものを見つけた.そこで本研究では,野生イネにおける穂の開帳性を支配する新たな遺伝子領域の推定を行うために,それらからAsN136系統を選抜した.このAsN136系統は,180のSSRマーカー座のうち27座において野生イネの対立遺伝子がホモ型であること,またNipponbareの遺伝的背景において9つの野生イネの染色体断片を持つことがわかった.そこで,この系統をNipponbareと交雑して,150個体からなるBC3F2世代の分離集団を作出した.これらを圃場に展開し,穂の形態調査を枝梗基部の観察に基づき行った.そして,27の分子マーカー座の遺伝子型のデータ用いて,穂の形態に関するQTL解析を行った.その結果,第5および11染色体上に2つのQTLが推定された.また,それぞれの集団全体の形質分離に対する寄与率は37.6%と4.9%であった.効果の大きかった第5染色体に座乗する遺伝子座については,BC3F3世代の植物を用いてその効果の後代検定を行った.その結果,穂の形態に関する新たな因子がRM421とRM274の分子マーカー座間の領域に存在することが示唆された.今後,OsLG1の発現解析および新規遺伝子座のファインマッピングを行うことにより,穂の開帳性を制御する遺伝子のメカニズムが明らかになると思われる.

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© 2016 近畿作物・育種研究会
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