抄録
イワテヤマナシ(Pyrus ussuriensis var. aromatica)は東北地方に自生する野生ナシの1変種である.1940年頃までは利用されていたが,現在は地元でもほとんど知られておらず,消滅の恐れがある.筆者は遺伝資源としてのイワテヤマナシに注目し,1999年より北東北3県を網羅した探索調査を行ってきた.その結果1500本以上のナシ属植物が見つかり,その8割は北上山系に集中して分布していた.集団構造解析により真のイワテヤマナシ集団を推定し,保全単位や保全方法を検討した.またイワテヤマナシの起源を解明するため,中国大陸に自生する秋子ナシ(Pyrus ussuriensis)との系統関係を調査した.ところでイワテヤマナシはニホンナシにない様々な有用形質を持つ.ここでは芳香を取り上げ,香気分析や香気関連QTL座の決定,香りナシ育種について紹介する.筆者はイワテヤマナシを利用することで認知度を高め,その結果,普及し,保全されることを期待している.最後に2011年の東日本大震災で被災した三陸沿岸地域で展開したイワテヤマナシを復興のシンボルとする取組を紹介する.