作物研究
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論文
蒸散を制御した条件下におけるイネの小穂開花について
小川 風和石川 亮石井 尊生
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ジャーナル オープンアクセス

2019 年 64 巻 p. 31-35

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抄録
イネにおいて小穂開花は種子生産に直結する受粉のための重要な過程のひとつである.小穂開花には,温度,湿度,光および物理的なストレスが大きく影響している.そこで,小穂開花に必要な要因を明らかにするために,まず日本型イネ品種の日本晴を用いて,4つの蒸散を制御した条件下(水没,シャワー,油,高湿度条件と表記)で小穂の開花調査を行なった.水没条件では,植物体の穂のみからの蒸散が可能な状態を設定した.その他の3条件では,水,油,高湿度により穂からの蒸散を制御するように設定した.それぞれの条件につき,開花直前の15小穂を残した4穂を処理し,翌日の午後に開花率を調査した.そして,同じ調査を3日間繰り返し,それぞれの処理区の開花率の平均値を比較した.水没条件下では多くの小穂が開花し,平均83.3%の開花率であった.一方,シャワーおよび油処理の条件下ではほとんど開花が見られなかった(シャワー:17.8%,油:0.6%).また,高湿度条件下ではほぼ半数(46.1%)の小穂の開花が観察された.これらの平均開花率はそれぞれ無処理のコントロール区(約92%)のものと比較すると有意に低い値となった.これらの結果は,内穎と外穎からの蒸散は小穂の開花に必要であることを示唆するものであった.次に,野生イネを用いて,外穎の先端に位置する芒からの蒸散が開花時間に関与しているか否かを調査した.3個体から8穂を準備し,1次枝梗ごとに交互に小穂の芒を切除した.植物体を野外の自然条件下に配置し,翌朝開花した全ての小穂の正確な開花開始時刻を分刻みで記録した.その結果,芒の有無によって開花開始時間に有意な差がないことがわかった.芒からの蒸散は直接開花開始時間には関係しなかったが,小穂の開花の正確なスイッチは内穎または外穎の表面からの蒸散に同調しているものと思われた.
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© 2019 近畿作物・育種研究会
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