抄録
奈良県に所在する唐古・鍵遺跡の3遺構および大福遺跡の1遺構において弥生時代の土層から検出された小穂(籾)と穂の一部を含む塊状の出土米(出土米ブロック)を対象に,SPring-8において放射光を用いたX線Computed Tomography(CT)計測を実施した.画素サイズ25.4μmの計測条件で得られた4個の出土米ブロックの画像の解析から,これらの出土米ブロックは同一方向に配列された2~4穂以上の穂を含んでいると推察された.そして,出土米ブロックに内在するすべての籾は籾長と籾幅の比からジャポニカ型に分類され,唐古・鍵遺跡内の3遺構間および両遺跡間でブロック内の籾の長さ,幅,厚みが有意に異なっていた.以上の結果と籾長の頻度分布から,出土米ブロック内の籾は,それぞれ異なる粒形のジャポニカ型の単一品種・系統に由来する可能性が示唆された.そして,出土米ブロック内の籾基部の脱粒部位の画像解析から,両遺跡のブロック内の籾の脱粒割合は現代品種の「難」に相当したが,脱粒籾の脱粒部位は脱粒性「極易」の品種の脱粒部位である小穂軸離層部であった.一方,玄米の厚みの解析から,非脱粒籾が成熟の進んでいない状態で収穫された可能性が示唆された.これらのことから,出土米ブロック内の籾の脱粒性の評価では,脱粒割合,脱粒部位そして脱粒籾の登熟程度の総合的評価が必要と考えられた.