抄録
熱の本性に関しては,生活環境における種々の熱現象は熱素的な考え方でそれなりに説明できるという特徴がある。このことと熱の科学史を考慮すれば,成人においても児童が発達過程で示す多様な思考形態が十分に存在すると推測される。この論文では,教育学部学生の熱概念認識の実態を調査し,その結果から,熱の考え方の変容過程を明らかにすることを試みた。調査の結果から,まず小学校における体膨張と熱伝導の現象の学習は,以後の熱学習に大きな比重を占めることがわかった。また熱の考え方としては,「熱いものという1成分説→熱いものと冷たいものという2成分説→粒子の運動エネルギー説」のような変容過程を辿ると考えられる。なお粒子運動の概念は,1成分説や2成分説の内容が,初期の純物質的な考えから,熱いものや冷たいものに重さ及び体積がないというような考えに移行して,初めて導入され始める。熱素的な考えでは,2成分説における「物体の加熱は熱源内の熱いものと物体内の冷たいものの交換でなされる」という考えが,調査した熱現象の説明には最も適していた。