抄録
本稿は,教師の授業行為を規定するとみなし得る「教師の信念」に着目し,その教師の信念という概念を明確にした上で,一小学校教師の授業行為に表出している信念の内実を明らかにした。その結果,児童一人一人を大切にする授業を展開する教師は,厳しい目で「教師という職業」を捉え,児童の学習状況に対して絶えず自身の授業や有り様を問い直す誠実さを具えている。そしてその教師を特徴づけるのが,児童中心的な効力感のある肯定的な授業観・児童観などの信念の存在である。しかし,この教師の信念がいつごろどのような契機で形成されたかの解明は今後の課題と言える。ただ,教師が児童中心的な効力感のある学習を促進し得る授業行為を展開できるのは,その基底に単なる手順や技法に還元できない充実した信念という基盤があるからである。それゆえ教師の職能発達を促進するためには,その教師自身の信念の内実までもが深く考慮される必要があると考える。