本研究では近代漢文教材におけるメリトクラシーの特徴について,明治30年代の代表的な漢文教科書の一つである国語漢文研究会編『中等漢文読本』(明治34年・明治書院)に着目し,同時期の小学校第一期国定教科書(修身・国語)との比較を通して分析した。『中等漢文読本』では武将や大名,学者の史伝が比較的多く収録されており,「士規七則」や「西諺漢訳」などに勤勉性やメリトクラシーの内容を読みとることができる。一方,国定修身教科書では二宮尊徳(尋常小学校)や豊臣秀吉・リンカーン(高等小学校)といった人物の教材において,また国定国語教科書では社会制度に関する文章において勤勉や立身の内容が看取できた。明治30年代前半の段階では,漢文教材の方が武士教育の系統に結びついていたと考えられる。