日本教科教育学会誌
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40 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • ― 国語漢文研究会編『中等漢文読本』と第一期国定教科書との比較を通して ―
    西岡 智史
    2017 年 40 巻 2 号 p. 1-10
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では近代漢文教材におけるメリトクラシーの特徴について,明治30年代の代表的な漢文教科書の一つである国語漢文研究会編『中等漢文読本』(明治34年・明治書院)に着目し,同時期の小学校第一期国定教科書(修身・国語)との比較を通して分析した。『中等漢文読本』では武将や大名,学者の史伝が比較的多く収録されており,「士規七則」や「西諺漢訳」などに勤勉性やメリトクラシーの内容を読みとることができる。一方,国定修身教科書では二宮尊徳(尋常小学校)や豊臣秀吉・リンカーン(高等小学校)といった人物の教材において,また国定国語教科書では社会制度に関する文章において勤勉や立身の内容が看取できた。明治30年代前半の段階では,漢文教材の方が武士教育の系統に結びついていたと考えられる。
  • ― 教室談話構造と発問に着目して ―
    加藤 智威
    2017 年 40 巻 2 号 p. 11-21
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本稿は,ガーナ共和国における,Grade7~9 のThe Best Teacher Award 受賞経験のある「受賞教師」と受賞経験のない「一般教師」の理科授業について,教師と生徒のインタラクションに着目し,IRF 構造(Sinclair & Coulthard, 1975)およびIRE 構造(Mehan, 1979)を援用して分析し,両者を比較検討した。その結果,受賞教師の授業では発問数は一般教師のそれよりも多く,IRE 構造,IRF 構造も共に成立した回数は多かった。しかしIRF 構造の繰り返しの中で,生徒の応答に基づいて生徒の理解度,既有知識や経験を把握し,より深い教室談話へと生徒を導けていないことが明らかになった。また,改訂版ブルームの分類指標(Andersaon, L. W. &Krathwohl, D. R., 2001)を用いて発問を分析した。受賞教師の授業では大部分は「記憶する」「理解する」の低位なものであり,「分析する」「評価する」にあたる,より高位な発問もなされたが,最も高位とされる「創造」の発問は全くなかった。
  • ― 中学校1年生男子生徒を対象にして ―
    津田 龍佑, 川口 諒, 齊藤 一彦
    2017 年 40 巻 2 号 p. 23-30
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,体力向上を意図したハンドボールの授業の効果を検討することを目的とした。そのために,広島県下のM 中学校に在籍する1年生男子生徒21名を対象として,体力向上を意図した授業を実施した。単元前後にスキルテスト(ハンドボール投げ),体力テスト(方向変換走)を実施した。また,毎回の授業後に,「技術面」「体力面」「心理面」から構成される質問紙調査を,単元終了後に「技能」「態度」「知識,思考・判断」から構成される質問紙調査を実施した。 その結果,体力向上を意図したハンドボールの授業により,技能面に対する効果は得られなかったものの,体力向上に対する効果が認められた可能性がある。
  • ― 金沢市の小学校教師を対象とした調査を手がかりに ―
    村井 万寿夫
    2017 年 40 巻 2 号 p. 31-42
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    総合的な学習の時間の趣旨を踏まえ創意工夫を生かした学習活動によって,児童の学習意欲の向上につながったと肯定的に捉えている教師が多い反面,総合的な学習の時間の指導はあまり得意ではないと意識している教師が一定の割合で見受けられる現状にある。そこで,小学校の教師を対象に質問紙調査と聞き取り調査を行い,教師の意識について整理と分析を行った。その結果,「総合的な学習を肯定的に捉えている教師は学習活動を教師自身も楽しんでいる」,「内容や方法の自由度が高いことから指導や準備に時間を要し不安感や負担感を抱いている」,「記録・作品・成果物,ポートフォリオファイルをもとにした教師評価,自己評価や相互評価,観察による評価を行っている」,「不安や負担の軽減には,計画時に何を重視してどのような学習環境を創出するか検討する」,「児童の興味をゆさぶり課題を発見させ自分で追究する意識と見通しを持たせ自力解決させる」,「実践記録や学習成果物を保存し引継ぎする意識を持つ」など,総合的な学習の展開上の示唆を導出することができた。
  • 平野 洋平
    2017 年 40 巻 2 号 p. 43-56
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    日本語を母語とする英語学習者(以下,JLE)による英語移動構文の習得に関する先行研究には,検証方法や結果の不一致・比較選択の問題・未検証の課題など挑むべき点が散見される。本研究ではそれらの点を踏まえ,統一・改善された検証方法を採用し,JLE による同構文とその迂言的表現の容認性判断の調査を試みた。その結果,以下の3点が確認された。(1) JLE は着点読みの解釈を伴う英語移動構文として, 場所句よりも着点句を容認する。(2) JLE は場所句を伴う英語移動構文に対して, 着点読みの解釈よりも場所読みの解釈を容認する。(3) JLE は英語移動構文の迂言的表現を過剰に容認する。移動構文には日英語間で許容されるタイプに差異があることがTalmy (2000) の類型論に基づいて指摘されてきたが,こうした類型論的な特徴を英語教育に取り入れて行く重要性が示唆される結果となった。
  • ― 幼・保での「経験知」に焦点を当てて ―
    安藤 哲也
    2017 年 40 巻 2 号 p. 57-66
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本稿では,幼児期の年長から小学校低学年までを接続期とする認識に基づき,接続期における子どもの学びの連続性を活かす授業の工夫について,小学校2年生の生活科の授業場面を事例として取り上げ,幼保での経験知に焦点を当てて分析・考察した。このことにより,生活科授業を実践する際に子どもたちの幼保での経験を起点にすることの意義について次の3点が明らかになった。第1に,幼保での経験を起点にする授業では,子どもたちが幼保で得た経験知を活用できるため,経験知を土台として学びを広げたり深めたりすることができる。第2に,幼保での経験を起点にする授業では,教科書の見本のような最終目標の形が明示されていないため,次々にアイデアを更新しながら活動を続けることができる。第3に,幼保での経験を起点にする授業では,「経験したことが楽しかった」という感覚的な経験知が活動への取り組みを促す刺激となり得る。
  • ―「食」「農」「環境」をつなぎ,生活に活かす学びに向けて―
    齋藤 美重子
    2017 年 40 巻 2 号 p. 67-80
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    現代日本では食における格差の連鎖や食に対する相対的価値の下落がみられ,学校教育全体での取り組みが求められている。本研究は,食と環境を結びつけ,食意識,食行動の変容を伴う小・中学校における体系化された学習目標と教科間のフレームワークの示唆を得ることを目的とする。 小・中学校教科書による調査では,家庭科は生活を見直し生活を創造する視点,社会は社会科学的視点,理科は自然科学的視点など様々な視点が整理された。各教科の学びを生活とかかわらせて生きた知識とするために,農業体験を総合的な学習の時間や特別活動等で行い,家庭科授業において食生活や環境と結びつけることで,生活に活かす学びへと深化させることが考えられた。また,農業体験と教科の学びから社会情動的スキルを伸ばし,生活の質を高める暮らし方,社会のあり方を問うていく市民を育てる学習をめざして,エンゲストロームの活動理論を援用した学校教育全体での取り組みがまとめられた。
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