2024 年 47 巻 2 号 p. 61-74
本資料は,社会科教育研究の分野で出版された渡部竜也著『主権者教育論』を,中高一貫校に勤務する数学科教師である筆者が読んで得た学びを「資料」としてまとめたものである。特に本資料では,筆者による中学校1年生の負の数の導入場面を事例として紹介しながら,渡部氏の主張する意味での「主権者教育」は,社会科のみならず数学科においても実現可能であることを主張する。特に授業の事例では,(1)数学的本質の社会的構成が実現できた点と,(2)学問としての「数学」の価値に対しては保守的な態度を取りながら,社会における「数学」の価値に対しては革新的な態度を取る,二重の態度での授業設計が実現できた点を論じる。また,こうした考察を通じて,数学教育研究に対しては,数学科授業が主権者教育の観点から新しく価値付け可能である点を,主権者教育論に対しては,主権者教育の概念規定の精緻化か社会科教育らしい主権者教育の検討が必要である点を示唆した。