日本教科教育学会誌
Online ISSN : 2424-1784
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47 巻, 2 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 冨田 晃
    原稿種別: 原著論文
    2024 年47 巻2 号 p. 1-12
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2025/05/10
    ジャーナル フリー

     本研究は,小学校図画工作科における各刃物の扱いについて,戦前,戦中の国定教科書との関係に注目しながら,批判的に考察したものである。戦前(尋常・高等小学校),戦中(国民学校),戦後(学校教育法における小学校)の教科書,学習指導要領,同解説・指導書を主な資料にしている。明治後期の国定教科書『小学校教師用手工教科書』によって工作教育の内容がおよそ定まり,戦中の国定教科書『エノホン』,『初等科工作』をもとに戦後の工作教育がはじまった。現在の1学年でのはさみ,中学年での小刀,のこぎり,高学年での糸のこぎり,といった刃物の扱いは,80年ほど前の戦時下で決められたことが,その後,十分な検討がなされないまま続けられてきたものといえそうである。

  • 梅木 璃子, 山内 優佳
    原稿種別: 原著論文
    2024 年47 巻2 号 p. 13-22
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2025/05/10
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,アカデミックな場面における英語習熟度が初級レベルの日本人大学生による不平の特徴を,第一言語(日本語)及び第二言語(英語)を比較・分析することで明らかにすることであった。日本人大学生139名を対象に,不平を伝えるか否かを問う項目と不平を誘出する項目から成るオンライン談話完成テストを実施し,日英両言語におけるデータを収集した。収集した不平データに対して(1)不平を伝えない判断(opt out)の有無,(2)opt out の選択に与える要因,(3)不平ストラテジーの使用傾向,の3観点から比較・分析を行なった。分析の結果,英語で伝える者は日本語でも伝え,英語で伝えない者は日本語でも伝えない判断をする傾向があり,日英における不平ストラテジーの使用傾向も概ね類似しているため,使用言語による影響が少ないことが明らかになった。したがって,両言語(日英)での言語表現に関する語用論的指導を行うことで,語用論的な気づきが促され,発話行為の断念(opt out)を防ぐこともできるため,両言語における言語表現の向上の可能性が示唆された。

  • 川島 浩勝
    原稿種別: 原著論
    2024 年47 巻2 号 p. 23-38
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2025/05/10
    ジャーナル フリー

     英語教育実践において(特に,小学校),音楽が果たす役割は決して小さくない。近年,脳科学・音楽心理学・認知心理学等の分野では音楽(学習)と外国語学習を含む他の認知活動の関係を解明するための研究が精力的に行われている。本研究は音楽的背景と英語類似音の聴覚的識別能力の関係解明を試みるもので,日本人英語学習者を対象に行った調査の結果を報告する。音楽的背景に関しては小学校等で受けた音楽教育に対する「好嫌度」と学外での音楽活動の「度合い」でその定義を行い,また,英語類似音の聴覚的識別能力に関してはパフォーマンステストを行った。データ分析の結果,英語類似音の聴覚的識別パフォーマンスの分散の約36%は小学校での学校音楽教育の「好嫌度」と大学における学校音楽活動の「度合い」等により説明され,小学校での学校音楽教育が後の英語類似音の聴覚的識別パフォーマンスに影響を及ぼす可能性があること等が論じられている。

  • 古賀 真也, 柏木 賀津子
    原稿種別: 原著論文
    2024 年47 巻2 号 p. 39-48
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2025/05/10
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,小学校教員のティーチャートークの質を高める研修を研究し,その有効性を検証することである。そのために,MERRIER Approachの7項目(渡邉・酒井・塩川・浦野, 2003)を参考にして,授業動画,ルーブリック,手引きなどの研修用デジタルコンテンツを開発し,16名の小学校教員を対象に研修を行った。検証方法には(1)質問紙調査(2)参加者の省察(3)ディスコース分析を用いた。その結果,参加者のティーチャートーク実践に対する自己効力感が高まる傾向が確認され,特に教職経験年数が短い教員に効果が顕著に見られた。また,研修用デジタルコンテンツが自己省察や自己修正のための指針となることが示唆された。事前に教員が苦手だと感じていた「具体例」と「言い換え」は事後には著しい伸びが見られた。参加者の省察からは,自身のティーチャートークについてより分析的に捉え,改善しようとする記述が確認された。

  • 大貫 守
    原稿種別: 原著論文〉
    2024 年47 巻2 号 p. 49-60
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2025/05/10
    ジャーナル フリー

     本稿では,米国の科学的探究力の基礎となる読みの力を育む科学教育について,特に,プロジェクトに基づく学習に取り組んできたML-PBLの理論と実践に着目し,その方策を明らかにする。まず,米国で読みの力を育む科学教育が求められている背景と言語教育における読みの力の育成を巡る論点について概観する。次に,ML-PBLの指導の方策について,特にその理論的基盤にある「多元的リテラシーを支援する導かれた探究」と「プロジェクトに基づく科学教育」の理論を中心にして分析を行う。最後に,小学校3年生の「どんな子どもでも作ることができる楽しい動く玩具を設計するにはどうしたら良いか?」の単元に着目し,ML-PBLの実践の意義について,これまでの米国における科学教育と言語教育の統合をめぐる論点に即して考察する。

  • 上ヶ谷 友佑
    原稿種別: 資料
    2024 年47 巻2 号 p. 61-74
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2025/05/10
    ジャーナル フリー

     本資料は,社会科教育研究の分野で出版された渡部竜也著『主権者教育論』を,中高一貫校に勤務する数学科教師である筆者が読んで得た学びを「資料」としてまとめたものである。特に本資料では,筆者による中学校1年生の負の数の導入場面を事例として紹介しながら,渡部氏の主張する意味での「主権者教育」は,社会科のみならず数学科においても実現可能であることを主張する。特に授業の事例では,(1)数学的本質の社会的構成が実現できた点と,(2)学問としての「数学」の価値に対しては保守的な態度を取りながら,社会における「数学」の価値に対しては革新的な態度を取る,二重の態度での授業設計が実現できた点を論じる。また,こうした考察を通じて,数学教育研究に対しては,数学科授業が主権者教育の観点から新しく価値付け可能である点を,主権者教育論に対しては,主権者教育の概念規定の精緻化か社会科教育らしい主権者教育の検討が必要である点を示唆した。

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