抄録
本研究の目的は,音楽鑑賞における主体の側の高次で非弁論的な精神作用の過程を分析し,それを構造化することである。主体の音楽に対する複雑であらわでない精神作用は,現象的に解明することは不可能であるけれども,論理形式的にならばその過程を分析し,構造化することは可能であり,このことは音楽教育が美的教育であるために不可避の課題であると思われる。筆者は,音楽に対する主体の精神作用を便宜上,知覚,認識,感情の諸領域においてそれぞれ解明してみることにしたので,本稿は3節構成になっている。各節においては,それぞれの領域で行使されると考えられる諸作用について,まず第一にその定義づけをし,第二にその特質を解明し,第三にその機能または類型を各領域に関連させながら論述し,第四にそのカテゴリーを分析することによって構造化を試み,最後に試案的,仮想的にその構造を図解した。