抄録
サンゴ礁生態系は豊かな生物多様性を通じて,沿岸住民に対し生態的・社会的・経済的利益をもたらしている。そのため,近年のサンゴ礁保全管理方法の確立には,自然科学的なデータに加えて社会経済的な情報を取り入れた政策決定プロセスがとられている。そこで,阿嘉島周辺海域におけるサンゴ礁の社会経済的な情報を明らかにするため,住民に対してアンケート調査を行った。その結果,住民はサンゴ礁の社会経済的価値を高く評価したとともに,サンゴ礁が荒廃している状況を広く認識していた。また,サンゴ礁の生態系や景観に関する非利用価値を評価するため,仮想評価法を用いて算出した支払い意志額の推定値は,1人当たり年間平均8,153円であった。さらに,サンゴ礁保全に関しては,ほとんどの住民がその必要性を認識していたとともに,コミュニティが主体となった保全活動への参加意欲を示した。そこで,政策決定者は,コミュニティを中心に据えた信頼関係を高め,利害関係者のネットワークを構築するとともに,生態系とともに社会経済的な情報に基づく明確な活動内容の有り方を示す必要がある。