日本サンゴ礁学会誌
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原著論文
サンゴの移植における採取苗と種苗の組み合わせ
―バスケット型供給の経済学的考察―
大久保 奈弥大沼 あゆみ
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2010 年 12 巻 1 号 p. 69-80

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抄録

熱帯・亜熱帯の海洋生態系の基盤であるサンゴ礁の劣化は,陸地生態系における森林減少と並んで最も解決すべき問題の1つである。しかし,ステークホルダーの多さから,一般的に陸上で用いられているような保全政策をそのまま適用することが難しい。一方で,サンゴ礁の積極的な修復を目的としたサンゴの移植が行われており,現在では企業ビジネスとして,数多くの移植ツアーが行われている。しかし,このツアーで使用されるサンゴ苗は,自然に生息するサンゴ群体から採取されているため,採取された親群体の繁殖量が低下するといった負の影響がある。また,移植されたサンゴ苗がどの程度生き残っているのかはほとんど報告されておらず,限られた量の群体を分割して移植苗にするので,種や遺伝的な多様性も低い。だが,移植ツアーは,修復活動の費用を節約するとともに,人々への啓蒙効果が期待できる。そこで我々は,本来なら自然界でほとんどが死亡するサンゴ胚から産出した種苗に着目し,既にビジネスとして動いている採取苗と組み合わせて販売する「バスケット型供給」を提案する。この供給方式は,採取苗の低費用性の利点と,種苗の低環境負荷性の利点とをうまく組み合わせたものである。いくつかのケースで,環境効果が最大となるバスケットを例示することで,経済的側面との関わりを説明する。将来的には,移植行為は環境配慮意識により行われることから,カーボンオフセットで見られるように,より環境効果の高いというプレミアムが付いた種苗を選好する差別需要が発生する可能性がある。

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© 2010 日本サンゴ礁学会
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