日本サンゴ礁学会誌
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久米島ナンハナリ沖で発見された中深度の大規模ヤセミドリイシ群集
木村 匡下池 和幸鈴木 豪仲与志 勇塩入 淳生田端 敦田端 裕二藤田 喜久座安 佑奈山野 博哉浪崎 直子横井 謙典小笠原 敬安村 茂樹
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2011 年 13 巻 1 号 p. 43-45

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抄録

中深度と呼ばれる水深30m から150m を超えるあたりまでの造礁サンゴ群集については,無減圧による安全なスキューバ潜水の限界を超えるため,30m 以浅の浅海域に比較してこれまであまり調べられてこなかった。しかし,この中深度の水深帯は台風や温度の変化等の影響を受けにくい比較的安定な環境であるため,浅海域のサンゴ礁生態系が大きな撹乱を頻繁に受けている現状では,造礁サンゴ類にとってのレフュジア(refugia)として貴重な生息域と言われる(Hinderstein et al. 2010)。
 沖縄島の西70kmに位置する久米島は,東部に広い堡礁,北部には急峻な断崖,南部には洞窟等の様々な地形を持ち,多様性の高いサンゴ群集を有している。著者の塩入淳生,田端敦,田端裕二により,南東岸のナンハナリ沖水深30m付近に枝状ミドリイシ属サンゴの大群集が分布しているという情報を得たため,2010年7月から8月にかけて,スキューバ潜水による主要構成種の分布調査を行い、その後も随時観察を続けていった。水深30m付近の大群集(図1)は,わずかにキクハナガサミドリイシ Acropora latistella(Brook, 1891)を含む(図2)が,大部分はヤセミドリイシ A. horrida(Dana, 1846)の単一種で構成されていた(図3)。この大群集は水深35m付近まで確認され,さらに深みへも広がっていた。水平方向へは幅(岸から沖方向)約200m,長さ(岸に平行)約1200mの範囲にわたって断続的に分布していることが確認された。
 ヤセミドリイシはIUCN(国際自然保護連合)の絶滅のおそれのある生物種のリスト(Red List)で絶滅の危険が増大している種(Vulnerable)と評価されており(Carpenter et al. 2008),これだけの面積の群集は大変貴重である。調査時間の制約から,今回確認できた分布範囲は全群集の一部であり,群集はさらに広がっている可能性がある。また,この大群集の周辺には,キクメイシ属やリュウキュウキッカサンゴ属など,他の造礁サンゴ類も比較的高被度に分布しており,この水深帯に広大なサンゴ礁生態系が形成されている可能性も大きいと思われた。漁業者やダイビング事業者からの情報では,同様の中深度のサンゴ群集は,慶良間諸島や宮古島周辺,八重山諸島など他の海域でも存在している可能性があり,本海域の群集とともにその生態学的な役割や位置づけ,隣接する浅海域との関係などについての今後の研究が期待される。

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© 2011 日本サンゴ礁学会
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