日本サンゴ礁学会誌
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13 巻, 1 号
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総説
  • 服部 昭尚
    2011 年 13 巻 1 号 p. 1-27
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2012/03/13
    ジャーナル フリー
    クマノミ類が共生するイソギンチャクは,“宿主イソギンチャク”と呼ばれ,クマノミ類にとっての隠れ場所として重要な役割を果たしている。一方,“宿主イソギンチャク”にとってのクマノミ類の役割については,これまで曖昧な点が多かった。本稿では,まず,褐虫藻に注目した最近の研究をまとめ,クマノミ類との共生がイソギンチャクにもたらす利益について明確にした。このことにより,あるイソギンチャク1個体の着底後初期の生存と成長には,クマノミ類との潜在的共生種数が多いほど有利であろうと推察された。“宿主イソギンチャク”には,定着したクマノミ類のほとんど全てが繁殖場所として利用する種(4種)のほかに,定着したクマノミ類の中の特定の種のみが繁殖に利用する種(2種),ほとんど全てが繁殖場所には利用しない種(4種)があり,クマノミ類にとってのイソギンチャクの価値に格差が存在する。イソギンチャク1種にとってのクマノミ類の潜在的共生種数はそこで繁殖が確認されたクマノミ類の種数と極めて強く相関しており,クマノミ類が価値の高いイソギンチャクを選択的に利用する傾向が示唆される。“宿主イソギンチャク”は,クマノミ類との関係性,特に双方にとっての価値の高低に注目すると4タイプに類型化されるが,タイプ間で観察例数に大きな違いが見られ,地理的分布が重複する221例の組合せのうち,実在するのは37.1%(82例)であった。これまでの研究を概観することにより,実在する組合せには,1)“宿主イソギンチャク”とクマノミ類の地理的分布の重複のほかに,2)生息場所の一致,3)クマノミ類による宿主選択性,さらに,4)宿主をめぐるクマノミ類の種間競争が大きく影響していることが理解できる。クマノミ類よりも寿命が長く,浮遊幼生期間も長い“宿主イソギンチャク”の地理的分布には,暖流の影響が大きいことが文献情報の分析から明らかになった。“宿主イソギンチャク”の分類は日本では混乱しているが,多少の問題点があったとしても,世界で幅広く用いられている分類に従うことにより,日本近海で報告されているイソギンチャクとクマノミ類の分布や生態,関係性について,他海域で得られた知見との比較分析が可能となる。
原著論文
  • 鈴木 豪, 新垣 誠司, 下田 徹, 名波 敦, 山下 洋, 甲斐 清香, 林原 毅, 與世田 兼三
    2011 年 13 巻 1 号 p. 29-41
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2012/03/13
    ジャーナル フリー
    日本最大のサンゴ礁である石西礁湖における枝状ミドリイシ群集の回復阻害要因を検討するため,サンゴ群集形成の基礎的パラメータとなる幼生加入量,移植した成体の生残・成長率,栄養塩および底質環境を調査した。石西礁湖中央部において,かつては枝状ミドリイシが密生していた「未回復域」と現在も枝状ミドリイシが群生する「健全域」のそれぞれで4定点を設け,上記の各パラメータを比較した。群集の自然回復力を推定する上で重要な幼生加入量は,いずれの地点でも極めて低い水準(3個体以下/176cm2)であったが,特に「未回復」域で少なかった(平均0.5個体以下/176cm2)。成体の生残・成長率は,「未回復」と「健全」域では目立った違いは見られなかったが,地点ごとに大きく異なり,群体の移植方法の違い(海底接着法あるいは底上げ法)によっても異なった。栄養塩環境としては,亜硝酸塩,リン酸塩濃度およびクロロフィルα量が「未回復域」で有意に高く,サンゴと海藻類との競争関係に与える影響などをさらに精査する必要がある。以上のことから,幼生加入の不足,海水の僅かな富栄養状態が群集の回復阻害要因のひとつと推測される。また,養殖種苗等を使った移植による修復を試みる場合は,数km2程度の狭い地域内であっても,場所ごとに最適な方法を事前に調査すべきであることが示唆された。
フォトギャラリー
  • 木村 匡, 下池 和幸, 鈴木 豪, 仲与志 勇, 塩入 淳生, 田端 敦, 田端 裕二, 藤田 喜久, 座安 佑奈, 山野 博哉, 浪崎 ...
    2011 年 13 巻 1 号 p. 43-45
    発行日: 2011/12/01
    公開日: 2012/03/13
    ジャーナル フリー
    中深度と呼ばれる水深30m から150m を超えるあたりまでの造礁サンゴ群集については,無減圧による安全なスキューバ潜水の限界を超えるため,30m 以浅の浅海域に比較してこれまであまり調べられてこなかった。しかし,この中深度の水深帯は台風や温度の変化等の影響を受けにくい比較的安定な環境であるため,浅海域のサンゴ礁生態系が大きな撹乱を頻繁に受けている現状では,造礁サンゴ類にとってのレフュジア(refugia)として貴重な生息域と言われる(Hinderstein et al. 2010)。
     沖縄島の西70kmに位置する久米島は,東部に広い堡礁,北部には急峻な断崖,南部には洞窟等の様々な地形を持ち,多様性の高いサンゴ群集を有している。著者の塩入淳生,田端敦,田端裕二により,南東岸のナンハナリ沖水深30m付近に枝状ミドリイシ属サンゴの大群集が分布しているという情報を得たため,2010年7月から8月にかけて,スキューバ潜水による主要構成種の分布調査を行い、その後も随時観察を続けていった。水深30m付近の大群集(図1)は,わずかにキクハナガサミドリイシ Acropora latistella(Brook, 1891)を含む(図2)が,大部分はヤセミドリイシ A. horrida(Dana, 1846)の単一種で構成されていた(図3)。この大群集は水深35m付近まで確認され,さらに深みへも広がっていた。水平方向へは幅(岸から沖方向)約200m,長さ(岸に平行)約1200mの範囲にわたって断続的に分布していることが確認された。
     ヤセミドリイシはIUCN(国際自然保護連合)の絶滅のおそれのある生物種のリスト(Red List)で絶滅の危険が増大している種(Vulnerable)と評価されており(Carpenter et al. 2008),これだけの面積の群集は大変貴重である。調査時間の制約から,今回確認できた分布範囲は全群集の一部であり,群集はさらに広がっている可能性がある。また,この大群集の周辺には,キクメイシ属やリュウキュウキッカサンゴ属など,他の造礁サンゴ類も比較的高被度に分布しており,この水深帯に広大なサンゴ礁生態系が形成されている可能性も大きいと思われた。漁業者やダイビング事業者からの情報では,同様の中深度のサンゴ群集は,慶良間諸島や宮古島周辺,八重山諸島など他の海域でも存在している可能性があり,本海域の群集とともにその生態学的な役割や位置づけ,隣接する浅海域との関係などについての今後の研究が期待される。
訂正記事
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