日本サンゴ礁学会誌
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総説
サンゴ礁における造礁サンゴからソフトコーラルへの群集シフトの可能性と生態系への影響
井上 志保里高橋 麻美
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2012 年 16 巻 1 号 p. 29-45

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抄録

近年,サンゴ礁生態系は温暖化・海洋酸性化のグローバルなストレス,および富栄養化・赤土等の流出などのローカルなストレスと,複数のストレスを受けている。ストレスをうけることによって,サンゴ礁生態系を支える生物である,造礁サンゴが衰退しうる。これまで,造礁サンゴに代わり他の生物が優占し,生態系がシフトする可能性が議論されてきた。その中で,造礁サンゴ衰退後に優占する生物の一つとしてソフトコーラルが挙げられる。ソフトコーラルは琉球諸島において場所によっては高い被度を示し,サンゴ礁の代表的な動物の一つである。しかし,ソフトコーラルについての研究は,造礁サンゴに比べると圧倒的に少ない。従って,造礁サンゴからソフトコーラル群集へのシフトの可能性について定量的に研究された例は殆ど無い。しかし,造礁サンゴとソフトコーラルは生息場所や身体の構造などに共通点を持つ。そのため,造礁サンゴについて行われた研究の着眼点と技術をソフトコーラルに応用し,両者の比較を行うことによって,現在進行中の,または,将来的に起こりうる,造礁サンゴからソフトコーラルへの群集シフトについて議論をすることができる。本稿は,はじめに,サンゴ礁生態系衰退の原因と,その後の生物相の変化について過去の事例・研究を紹介し,造礁サンゴからソフトコーラルへの群集シフトの可能性とその重要性を述べる。そして,群集シフトが起こる原因とメカニズムについて,ソフトコーラルの生態・身体構造に着目し議論する。次に,実際の群集シフトを確認するために必要となるアプローチを提案し,最後に,実際にソフトコーラル群集が優占した場合に生態系全体に起こりうる影響を挙げる。本稿では,研究の対象とする生物,造礁サンゴ・ソフトコーラル間において連携し,生理学的応答,野外における分布,他生物への影響などを比較することを軸として,サンゴ礁における造礁サンゴからソフトコーラルへの群集シフトについて議論する。

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© 2014 日本サンゴ礁学会
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