日本サンゴ礁学会誌
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16 巻, 1 号
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緒言
総説
  • 中嶋 亮太, 田中 泰章
    2014 年 16 巻 1 号 p. 3-27
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/02
    ジャーナル フリー
    造礁サンゴが透明で粘性のある有機物(サンゴ粘液)を海水中に分泌することは古くから良く知られてきた。この粘液はサンゴの生育に欠かせない生理的機能に関与しており,例えばストレスに対する防御や餌の捕獲,細胞内の代謝調節など,様々な理由から分泌される。粘液の化学成分は糖質,タンパク質,脂質などから成り,海水中に放出されると大部分は溶存態有機物として従属栄養細菌に利用されながら微生物ループに取り込まれていく。一方,高分子の粒状態有機物はその粘性ゆえ,海水中の粒子を次々に捕捉しながらサイズを増大させ,効率良く高次の栄養段階に取り込まれる。このように,サンゴ粘液は多様な経路でサンゴ礁の生物群集に取り込まれていき,生態系の物質循環を構成する上でなくてはならない有機物エネルギーとして機能している。本総説では造礁サンゴが放出する粘液の形や化学組成,生産速度,従属栄養生物群集に対する役割などについて紹介し,サンゴ粘液の重要性について生物地球化学的・生態学的観点からまとめる。さらにこれまでの研究の問題点を整理し,今後の研究の方向性を述べる。
  • 井上 志保里, 高橋 麻美
    2012 年 16 巻 1 号 p. 29-45
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/09/02
    ジャーナル フリー
    近年,サンゴ礁生態系は温暖化・海洋酸性化のグローバルなストレス,および富栄養化・赤土等の流出などのローカルなストレスと,複数のストレスを受けている。ストレスをうけることによって,サンゴ礁生態系を支える生物である,造礁サンゴが衰退しうる。これまで,造礁サンゴに代わり他の生物が優占し,生態系がシフトする可能性が議論されてきた。その中で,造礁サンゴ衰退後に優占する生物の一つとしてソフトコーラルが挙げられる。ソフトコーラルは琉球諸島において場所によっては高い被度を示し,サンゴ礁の代表的な動物の一つである。しかし,ソフトコーラルについての研究は,造礁サンゴに比べると圧倒的に少ない。従って,造礁サンゴからソフトコーラル群集へのシフトの可能性について定量的に研究された例は殆ど無い。しかし,造礁サンゴとソフトコーラルは生息場所や身体の構造などに共通点を持つ。そのため,造礁サンゴについて行われた研究の着眼点と技術をソフトコーラルに応用し,両者の比較を行うことによって,現在進行中の,または,将来的に起こりうる,造礁サンゴからソフトコーラルへの群集シフトについて議論をすることができる。本稿は,はじめに,サンゴ礁生態系衰退の原因と,その後の生物相の変化について過去の事例・研究を紹介し,造礁サンゴからソフトコーラルへの群集シフトの可能性とその重要性を述べる。そして,群集シフトが起こる原因とメカニズムについて,ソフトコーラルの生態・身体構造に着目し議論する。次に,実際の群集シフトを確認するために必要となるアプローチを提案し,最後に,実際にソフトコーラル群集が優占した場合に生態系全体に起こりうる影響を挙げる。本稿では,研究の対象とする生物,造礁サンゴ・ソフトコーラル間において連携し,生理学的応答,野外における分布,他生物への影響などを比較することを軸として,サンゴ礁における造礁サンゴからソフトコーラルへの群集シフトについて議論する。
  • 樋口 富彦, 湯山 育子, 中村 崇
    2014 年 16 巻 1 号 p. 47-64
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/02
    ジャーナル フリー
    サンゴ礁生態系は近年,人為起源によると考えられる様々なストレスに晒されており,その衰退が危惧されている。造礁性サンゴ類(以降略してサンゴと記載)はストレスを受けた際,『白化現象』をはじめ様々な応答を示す。サンゴはストレスに対する防御機構を備え持つと考えられているが,その機能の多くが解明されていないのが現状である。造礁性サンゴのストレス防御機構を知ることは,白化現象等,環境変化により生じる変化に対処する方法を探索することにもつながるため重要となる。近年,遺伝子解析技術の向上により,造礁性サンゴの一種であるコユビミドリイシの全ゲノム解読が完了したことから,今後サンゴのストレス防御機構についての研究が飛躍的に進むことが期待されている。本総説では,高水温や強光など環境ストレスに対する造礁性サンゴのストレス応答について,遺伝子,生理および生態の多角的な視点から理解の現状をまとめる。また,抗酸化物質やマイコスポリン様アミノ酸,蛍光タンパク質などサンゴの持つストレス防御機構についての知見をまとめ,今後サンゴのストレス耐性や防御に関する研究を進める上での展望を述べる。
解説
  • 浪崎 直子, 鈴木 利幸
    2014 年 16 巻 1 号 p. 65-73
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/02
    ジャーナル フリー
    新学術領域研究「サンゴ礁学」(研究代表者 茅根 創)総括班は,異分野連携,フィールド整備,研究成果の発信と適用,人材育成の4点を目標とした。この目標を達成する一つの取り組みとして,博士研究員と大学院生を中心とした「サンゴ礁学」若手の会を組織し,研究会を通じて異分野連携を促進し,月刊ダイバーでの連載,サマースクールの運営などの協働の場を通じて若手間のコミュニケーションを促進してきた。本稿では,「サンゴ礁学」の若手が実際に行った異分野連携と地域連携の事例を述べ,異分野連携・地域連携が重要視されるようになった社会的背景について概説し,最後に日本サンゴ礁学会若手の会の今後の方向性を提案したい。
  • 仲栄真 礁, 浪崎 直子, 佐藤 崇範, 高橋 志帆, 森 愛理, 高橋 麻美, 石川 恵, 田村 裕, 棚谷 灯子, 内藤 明
    2012 年 16 巻 1 号 p. 75-86
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/09/02
    ジャーナル フリー
    日本サンゴ礁学会若手の会・環境教育ワーキンググループでは,主に日本サンゴ礁学会会員を対象として,サンゴ礁分野における教育活動の現状と課題を明らかにするためのアンケート調査を実施した。537 名の調査対象者に対し,アンケートの回収率は 15.1%で,回答者の 69.1%が何らかの教育活動への参加経験があり,また 98.8%がこうした教育活動に関心があると回答した。また教育活動が重要であると考える理由としては,「保全活動の一環として教育活動を重要視している」とする回答が 29.2%と最も多かった。活動実施の際の課題や必要な支援に関する主な意見としては,時間的負担,予算不足,人材不足が挙げられた。加えて,若手研究者が教育活動に参加することへの正の効果についても考察し,若手学会員の視点から今後の教育活動における連携や実施の促進に向けた活動案も提案する。
展望
  • 高橋 麻美, 浪崎 直子, 井上 志保里
    2012 年 16 巻 1 号 p. 87-94
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/09/02
    ジャーナル フリー
    2012年11月23日,日本サンゴ礁学会第15回大会自由集会「若手の異分野連携を考える—日本サンゴ礁学会若手の会たちあげ—」が開かれ,これを決起集会として日本サンゴ礁学会若手の会が設立された。本稿では,若手の会を設立するに至ったこれまでの経緯と,設立のねらいを明示し,本自由集会で発表された既存の若手の連携研究例の要点をまとめる。さらに,展望として自由集会で議論した今後の若手の連携案と,異分野連携を一歩進めるための戦略を示す。
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